3月 23

佐渡友 哲(日本大学大学院法学研究科講師)

1.はじめに

新型コロナウイルスの感染者数が760万人を超えて世界一となった米国で、9年前の米国映画のDVDがレンタルチャートで他の新作と並んで異彩を放っているそうである。その映画は、スティーブン・ソダーバーグ監督によるSFスリラー「コンデイジョン(接触感染)」(2011年公開)である。この映画に注目が集まる理由はおそらく、今日のパンデミックを予想したかのような内容だからであろう。筆者はこのDVDを観て、これから世界で何が問題とされるかについて、ヒントになる内容であるとの印象を受けた。

内容を簡潔に紹介してみよう。香港出張からシカゴに帰った女性が咳と発熱に襲われた。その後彼女と同じ症状の人間が全米の主要都市で現れるようになり、やがて世界各地で死亡者が報告されるようになりパンデミックに発展する。主要都市は次々にロックダウンされる。映画において、この新種のウイルスによる世界の死亡者は2600万人で致死率は25~30%と想定されている。米国とフランスは極秘にワクチンと治療薬を開発・製造してWHOもそれを黙認し、FDA(米国食料医薬局)も米国製ワクチンを通常より早めに承認する。映画の最終場面では、完成した最初のワクチンは数が少ないため、地方政府が抽選による配布を決めるが、各地でその取り合いをめぐり暴動が起きる。およそそのような内容である。

映画の中で起きたワクチンの分配や取り合いをめぐる問題が今後、新興国や途上国で起こらないようなシナリオを作り出さなければならない。現在のパンデミックでは、すでにウイルスがアフリカ・中東・南アジア・ラテンアメリカに拡散し、深刻で長期的な諸課題をもたらす「第2フェーズ」に入ったと認識すべきであろう。10月5日、WHO(世界保健機関)はショッキングな発表をした。同機関の緊急対応責任者マイク・ライアン氏は、これまでに世界人口の10%が新型コロナウイルスに感染した可能性があるとの推計を示したのだ。世界人口約77億人のうち約7億7千万人がすでに感染したとする計算である。

10月5日現在の世界の累計感染者数は約3527万人(ジョンズ・ホプキンス大の累計)であるので、ライアン氏はその20倍以上にあたる推計を示したことになる。WHOは、感染の広がりを理解するために抗体を持つ人の割合を世界各地で調査しているようであるが、詳しい計算の仕方は公表していない。ウイルスは拡大し続け、終息の目途が立たないこのパンデミックの出口を見出すには、ワクチンや治療薬の開発とその配分についてのグローバルな連帯と多国間の国際協調主義を取り戻すことが最重要である。この課題について現状を分析し展望を試みたい。

2.ワクチン開発の現実

今日のワクチン開発についても大きな問題がある。WHOによるとCOVID-19に対するワクチン開発プロジェクトは現在世界で120以上が進行中である。世界各国の研究機関、製薬会社約20社がしのぎを削っている。ワクチン開発は、研究から配布まで通常5年から10年はかかるとされている。ところが実際には、中国が例外的に接種をはじめ、ロシアは8月、第3段階(人間対象の広範な治験段階)を待たずに正式に使用を承認した。米国のCDC(疾病対策センター)の所長は、緊急で使用を許可する可能性を明らかにしている。WHOは、ワクチンの使用を決めるのは各国の権利だと認めているが、安全性や有効性については多くの研究成果から得られなければならないとしている。日本政府は8月、英国の製薬会社アストラゼネカがオックスフォード大学と共同開発を進めているワクチンを、少なくとも6000万人分の供給を受けることを基本合意したと発表した。こうした話題は国内では人々にある種の安堵感を与えるが、世界の問題から人々の目をそらせてしまうのではないか。

すでに述べたように、コロナ危機は第2フェーズを迎え、新興国・途上国に襲い掛かっている。新興国・途上国の感染症の被害は壊滅的になる恐れがある。それらの国々・地域の隅々までワクチンが届くのはいつになるのかはまったく予期できない。紹介した映画にように、ワクチンの配分をめぐり暴動が起こるのか。先進国のすべての人間にワクチンがゆきわたったあとにそれらの地域に普及するのか。あるいは技術覇権の争いのように、先進各国が閉鎖的になり、一国主義や同盟国優遇策に向かうのではないか。少なくとも現状を観察すると「ワクチン・ナショナリズム」はすでに現実に生起しているような気がする。

3.パンデミックの国際協調主義へ向けて

こうした現状に対して新たな国際協調の方向が打ち出された。WHOなどは9月21日、新型コロナウイルスのワクチンを国際的に共同購入する枠組み「COVAXファシリティ」(COVID-19 Vaccine Global Access Facility)に日本やEU諸国を含む計156カ国・地域が参加を正式に決めたと発表した。これは参加国の出資を元に製薬会社のワクチン開発を支援し、共同でワクチンを買い付け、新興国・途上国を含めた供給体制をつくるという構想である。出資国は人口の2割分のワクチンを確保できることになっている。

COVAXファシリティの目的は、2021年末までにパンデミックの急性期を終わらせるために20億回分のワクチン投与を利用できることである。世界人口の64%(156カ国)をカバーできるという(WHOリリース:9月21日)。この構想にはWHOの他に、ワクチン普及に取り組む官民連携団体「Gaviワクチン連合」が中心的な運営を担い、先進国のワクチンメーカー、ユニセフ、世界銀行、市民団体などが協力している。この枠組みは9月18日が正式参加の締め切りであったが、さらに38カ国が近く参加することを期待されているという。ちなみに日本は172億円拠出し、約2500万人分のワクチンを購入する権利を得られるとしている。この時点ではCOVAXファシリティの枠組みに、米国、中国、ロシアは参加していない。

いま現実に起きていることは「対立と協調の混合」だと説明したのは人類学者のジャレド・ダイヤモンドである。ウイルスという人類共通の敵を前にして、私たちは国境を超えた国際協調主義こそが目指すべき方向であると考える。しかし現実の世界は、技術覇権主義や政治的分断に陥ってしまっているのではないのか。米国の現政権は少なくともこのパンデミックでは、世界のリーダー役を放棄し、人類の将来より米国をふたたび偉大な国にする方が大事であるとの立場を隠そうともしていない。

だが、トランプ政権以前の国際保健分野を振り返ってみると状況は現在とは違っていた。感染症対策の世界で「世界最強の機関」といわれているCDCは、「国境に到達する前に疾病と闘う」ことを21世紀の使命の一つとし、全米と世界60カ国以上に医師や研究者など1万4千人以上の職員を抱えていた。2012年にSARS(重症急性呼吸症候群)が中国を襲った際、米国がCDCの専門家40人を現地に送って支援したことをきっかけに、両国間の協力は加速した。13年にH7N9型のインフルエンザが中国で発生した際には、米中が共同研究をしている。このことは、パンデミックに対処する米国を含めた国際協調体制の構築が可能であるということを示しているのではないか。

4.新しい国際レジームの形成

このコロナ危機以前には一般的に、感染症を含む国際保健の分野ではWHOを中心に、多国間での協調体制あるいは「国際レジーム」が成立しているように考えられていたが、実際にはそうではなかった。しかし、「COVAXファシリティ」の構想によってパンデミックの第2フェーズで、ワクチンの供給・配分という国際協調が実現する可能性が見えてきた。これにより、新たな国際レジームが形成さることに期待が集まることになった。グローバルに結束した国際協調主義を選択しなければ、今後人類を襲うであろう様々な病気の大流行や危険に勝利することはできないであろう。

WHOは政府間国際組織である。だがその拠出金の割合を見ると第一位は米国(11.96%)、第2位はビル&メリンダ・ゲイツ財団(11.41%)である。英国(5.86%)、ドイツ(5.51%)、

そして日本は3.77%で第9位である(2020 ~21年)。拠出金が最大の米国が脱退を宣言し、民間財団が巨額な資金を提供しているという脆弱性も露呈している。WHOは各国の主権を尊重する立場から権限が弱いという、国際機関ならではの生来の弱点をもっている。しかし主権国家だけではなく、民間財団、研究機関、製薬会社、NGO、市民社会、そして他の国際機関(ユニセフ・世界銀行など)との協力のネットワークがWHOを支えて、国際レジームが形成されうると考えるべきである。

国際レジームという概念は、国際政治理論における一つの分析枠組みである。世界議会も世界政府もない、いわば無政府状態の世界で、特定分野でルールや意思決定のプロセスを多国間で形成し、秩序や平和を構想しようとするものである。WHO憲章では、「すべての人々が可能な最高の健康水準に到達すること」を目的としている。近年では、疾病に関する国際レジームを語るときに「グローバル・ヘルス」という言葉が使われる。この言葉には、感染症を含む疾病対策については、国家だけではなく多様なアクターが協力し、「誰ひとりとして取り残さない」というSDGsの基本方針と同様な、強いメッセージが感じられる。

10月9日、中国外務省はCOVAXファシリティに参加することを発表した。中国は多国間の枠組みに参加することで国際協調を示そうとしている。ワクチンの公平な分配を促すことを実際の行動で示すと同時に、米国を牽制することにもなるだろう。ワクチンを開発中の中国製薬3社は、ブラジルなどと契約済みで、中国政府は独自に、治験終了後に供給する計画である。この時点でCOVAXファシリティの参加国は約170カ国になった。さらに米国、ロシアが参加することになり、COVAXファシリティにワクチンを供給する国や製薬会社が具体的に明確になる必要がある。そして各国が「ワクチン・ナショナリズム」を回避することにより、グローバル・ヘルス分野のより強固な国際レジームが形成されるのではと期待するところである。

(2020年10月10日)

[主要参考文献]

・詫摩佳代『人類と病:国際政治から見る感染症と健康格差』中公新書、2020年

・ジャレド・ダイヤモンド、ポール・クルーグマン他/大野和基編『コロナ後の世界』文春新書、2020年

・朝日新聞、2020年4月14日~16日、9月23日、10月7日

・読売新聞、2020年5月25日、10月6日

・日本経済新聞、2020年3月31日、9月23日、10月10日

・Newsweek,2020, 2/18, 8/25, 9/1, 9/8,10/6

https://www.who.int/dg

https://www.who.int/news-room/fact-sheets

・https://extranet.who.int/kobe_centre/ja/covid

・https://www.who.int/news-room/detail/21-09-2020-boost-for-global-response-to-

COVID-19

・https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-54143093

https://www3.nhk.org/jp/news/special/coronavirus/medicine/

3月 05

佐渡友 哲(日本大学大学院法学研究科講師)

1.はじめに

新型コロナウイルスの感染者数が760万人を超えて世界一となった米国で、9年前の米国映画のDVDがレンタルチャートで他の新作と並んで異彩を放っているそうである。その映画は、スティーブン・ソダーバーグ監督によるSFスリラー「コンデイジョン(接触感染)」(2011年公開)である。この映画に注目が集まる理由はおそらく、今日のパンデミックを予想したかのような内容だからであろう。筆者はこのDVDを観て、これから世界で何が問題とされるかについて、ヒントになる内容であるとの印象を受けた。

内容を簡潔に紹介してみよう。香港出張からシカゴに帰った女性が咳と発熱に襲われた。その後彼女と同じ症状の人間が全米の主要都市で現れるようになり、やがて世界各地で死亡者が報告されるようになりパンデミックに発展する。主要都市は次々にロックダウンされる。映画において、この新種のウイルスによる世界の死亡者は2600万人で致死率は25~30%と想定されている。米国とフランスは極秘にワクチンと治療薬を開発・製造してWHOもそれを黙認し、FDA(米国食料医薬局)も米国製ワクチンを通常より早めに承認する。映画の最終場面では、完成した最初のワクチンは数が少ないため、地方政府が抽選による配布を決めるが、各地でその取り合いをめぐり暴動が起きる。およそそのような内容である。

映画の中で起きたワクチンの分配や取り合いをめぐる問題が今後、新興国や途上国で起こらないようなシナリオを作り出さなければならない。現在のパンデミックでは、すでにウイルスがアフリカ・中東・南アジア・ラテンアメリカに拡散し、深刻で長期的な諸課題をもたらす「第2フェーズ」に入ったと認識すべきであろう。10月5日、WHO(世界保健機関)はショッキングな発表をした。同機関の緊急対応責任者マイク・ライアン氏は、これまでに世界人口の10%が新型コロナウイルスに感染した可能性があるとの推計を示したのだ。世界人口約77億人のうち約7億7千万人がすでに感染したとする計算である。

10月5日現在の世界の累計感染者数は約3527万人(ジョンズ・ホプキンス大の累計)であるので、ライアン氏はその20倍以上にあたる推計を示したことになる。WHOは、感染の広がりを理解するために抗体を持つ人の割合を世界各地で調査しているようであるが、詳しい計算の仕方は公表していない。ウイルスは拡大し続け、終息の目途が立たないこのパンデミックの出口を見出すには、ワクチンや治療薬の開発とその配分についてのグローバルな連帯と多国間の国際協調主義を取り戻すことが最重要である。この課題について現状を分析し展望を試みたい。

2.ワクチン開発の現実

今日のワクチン開発についても大きな問題がある。WHOによるとCOVID-19に対するワクチン開発プロジェクトは現在世界で120以上が進行中である。世界各国の研究機関、製薬会社約20社がしのぎを削っている。ワクチン開発は、研究から配布まで通常5年から10年はかかるとされている。ところが実際には、中国が例外的に接種をはじめ、ロシアは8月、第3段階(人間対象の広範な治験段階)を待たずに正式に使用を承認した。米国のCDC(疾病対策センター)の所長は、緊急で使用を許可する可能性を明らかにしている。WHOは、ワクチンの使用を決めるのは各国の権利だと認めているが、安全性や有効性については多くの研究成果から得られなければならないとしている。日本政府は8月、英国の製薬会社アストラゼネカがオックスフォード大学と共同開発を進めているワクチンを、少なくとも6000万人分の供給を受けることを基本合意したと発表した。こうした話題は国内では人々にある種の安堵感を与えるが、世界の問題から人々の目をそらせてしまうのではないか。

すでに述べたように、コロナ危機は第2フェーズを迎え、新興国・途上国に襲い掛かっている。新興国・途上国の感染症の被害は壊滅的になる恐れがある。それらの国々・地域の隅々までワクチンが届くのはいつになるのかはまったく予期できない。紹介した映画にように、ワクチンの配分をめぐり暴動が起こるのか。先進国のすべての人間にワクチンがゆきわたったあとにそれらの地域に普及するのか。あるいは技術覇権の争いのように、先進各国が閉鎖的になり、一国主義や同盟国優遇策に向かうのではないか。少なくとも現状を観察すると「ワクチン・ナショナリズム」はすでに現実に生起しているような気がする。

3.パンデミックの国際協調主義へ向けて

こうした現状に対して新たな国際協調の方向が打ち出された。WHOなどは9月21日、新型コロナウイルスのワクチンを国際的に共同購入する枠組み「COVAXファシリティ」(COVID-19 Vaccine Global Access Facility)に日本やEU諸国を含む計156カ国・地域が参加を正式に決めたと発表した。これは参加国の出資を元に製薬会社のワクチン開発を支援し、共同でワクチンを買い付け、新興国・途上国を含めた供給体制をつくるという構想である。出資国は人口の2割分のワクチンを確保できることになっている。

COVAXファシリティの目的は、2021年末までにパンデミックの急性期を終わらせるために20億回分のワクチン投与を利用できることである。世界人口の64%(156カ国)をカバーできるという(WHOリリース:9月21日)。この構想にはWHOの他に、ワクチン普及に取り組む官民連携団体「Gaviワクチン連合」が中心的な運営を担い、先進国のワクチンメーカー、ユニセフ、世界銀行、市民団体などが協力している。この枠組みは9月18日が正式参加の締め切りであったが、さらに38カ国が近く参加することを期待されているという。ちなみに日本は172億円拠出し、約2500万人分のワクチンを購入する権利を得られるとしている。この時点ではCOVAXファシリティの枠組みに、米国、中国、ロシアは参加していない。

いま現実に起きていることは「対立と協調の混合」だと説明したのは人類学者のジャレド・ダイヤモンドである。ウイルスという人類共通の敵を前にして、私たちは国境を超えた国際協調主義こそが目指すべき方向であると考える。しかし現実の世界は、技術覇権主義や政治的分断に陥ってしまっているのではないのか。米国の現政権は少なくともこのパンデミックでは、世界のリーダー役を放棄し、人類の将来より米国をふたたび偉大な国にする方が大事であるとの立場を隠そうともしていない。

だが、トランプ政権以前の国際保健分野を振り返ってみると状況は現在とは違っていた。感染症対策の世界で「世界最強の機関」といわれているCDCは、「国境に到達する前に疾病と闘う」ことを21世紀の使命の一つとし、全米と世界60カ国以上に医師や研究者など1万4千人以上の職員を抱えていた。2012年にSARS(重症急性呼吸症候群)が中国を襲った際、米国がCDCの専門家40人を現地に送って支援したことをきっかけに、両国間の協力は加速した。13年にH7N9型のインフルエンザが中国で発生した際には、米中が共同研究をしている。このことは、パンデミックに対処する米国を含めた国際協調体制の構築が可能であるということを示しているのではないか。

4.新しい国際レジームの形成

このコロナ危機以前には一般的に、感染症を含む国際保健の分野ではWHOを中心に、多国間での協調体制あるいは「国際レジーム」が成立しているように考えられていたが、実際にはそうではなかった。しかし、「COVAXファシリティ」の構想によってパンデミックの第2フェーズで、ワクチンの供給・配分という国際協調が実現する可能性が見えてきた。これにより、新たな国際レジームが形成さることに期待が集まることになった。グローバルに結束した国際協調主義を選択しなければ、今後人類を襲うであろう様々な病気の大流行や危険に勝利することはできないであろう。

WHOは政府間国際組織である。だがその拠出金の割合を見ると第一位は米国(11.96%)、第2位はビル&メリンダ・ゲイツ財団(11.41%)である。英国(5.86%)、ドイツ(5.51%)、

そして日本は3.77%で第9位である(2020 ~21年)。拠出金が最大の米国が脱退を宣言し、民間財団が巨額な資金を提供しているという脆弱性も露呈している。WHOは各国の主権を尊重する立場から権限が弱いという、国際機関ならではの生来の弱点をもっている。しかし主権国家だけではなく、民間財団、研究機関、製薬会社、NGO、市民社会、そして他の国際機関(ユニセフ・世界銀行など)との協力のネットワークがWHOを支えて、国際レジームが形成されうると考えるべきである。

国際レジームという概念は、国際政治理論における一つの分析枠組みである。世界議会も世界政府もない、いわば無政府状態の世界で、特定分野でルールや意思決定のプロセスを多国間で形成し、秩序や平和を構想しようとするものである。WHO憲章では、「すべての人々が可能な最高の健康水準に到達すること」を目的としている。近年では、疾病に関する国際レジームを語るときに「グローバル・ヘルス」という言葉が使われる。この言葉には、感染症を含む疾病対策については、国家だけではなく多様なアクターが協力し、「誰ひとりとして取り残さない」というSDGsの基本方針と同様な、強いメッセージが感じられる。

10月9日、中国外務省はCOVAXファシリティに参加することを発表した。中国は多国間の枠組みに参加することで国際協調を示そうとしている。ワクチンの公平な分配を促すことを実際の行動で示すと同時に、米国を牽制することにもなるだろう。ワクチンを開発中の中国製薬3社は、ブラジルなどと契約済みで、中国政府は独自に、治験終了後に供給する計画である。この時点でCOVAXファシリティの参加国は約170カ国になった。さらに米国、ロシアが参加することになり、COVAXファシリティにワクチンを供給する国や製薬会社が具体的に明確になる必要がある。そして各国が「ワクチン・ナショナリズム」を回避することにより、グローバル・ヘルス分野のより強固な国際レジームが形成されるのではと期待するところである。

(2020年10月10日)

[主要参考文献]

・詫摩佳代『人類と病:国際政治から見る感染症と健康格差』中公新書、2020年

・ジャレド・ダイヤモンド、ポール・クルーグマン他/大野和基編『コロナ後の世界』文春新書、2020年

・朝日新聞、2020年4月14日~16日、9月23日、10月7日

・読売新聞、2020年5月25日、10月6日

・日本経済新聞、2020年3月31日、9月23日、10月10日

・Newsweek,2020, 2/18, 8/25, 9/1, 9/8,10/6

https://www.who.int/dg

https://www.who.int/news-room/fact-sheets

・https://extranet.who.int/kobe_centre/ja/covid

・https://www.who.int/news-room/detail/21-09-2020-boost-for-global-response-to-

COVID-19

・https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-54143093

https://www3.nhk.org/jp/news/special/coronavirus/medicine/