ブッシュ大統領が、イラク、イラン、北朝鮮を「悪の枢軸」としてならず者国家のレッテルを貼り10年近くの時が流れた。
その間、イラクへは、大量破壊兵器の保有を口実に先制攻撃を行い、米国は大失策を演じた。
イランに対しては、イラク問題が影響し、袋小路に入ったままである。
北朝鮮に関しては、米国の一連の外交・安全保障の失策を梃子に瀬戸際外交に拍車をかける結果となっている。
北東アジアは、朝鮮半島の38度線を境に勢力均衡型の安全保障により紛争が抑止されてきた。
しかし、米国の影響力の低下と中国の経済力、軍事力の著しい上昇により勢力均衡が崩れ、
不確実性要因が高まっている。そのような国際情勢の変化を如実に示すかの如く、
北朝鮮は韓国の軍事演習を口実に1953年の一時的停戦協定以来、はじめての地上への砲撃を行い、韓国は砲撃で応戦したのである。
この非常時において、ニューヨークタイムズやワシントンポストの紙面で、
東アジアの専門家は、多角的視点で北朝鮮の暴走について論じている。
北朝鮮に対し最もソフトなアプローチは、米朝の直接対話と交渉により、米朝の不可侵条約を結ぶ事により、
北朝鮮の核開発や瀬戸際外交に歯止めをかけることができるという論調がある。
加えて、北朝鮮は貿易や投資といった経済活動を通じて富国を目指しており、国際社会は、
北朝鮮の市場経済化に向けた活動を支援することにより紛争を回避出来るという考え方がある。
北朝鮮という国家を性善説により考察した場合、このような経済協力を主眼としたソフトなシナリオが成立する。
また、北朝鮮を性悪説の視点で見れば、例えば、1994年の金日成から金正日の権力移行期の核開発の予兆期に軍事介入を
すべきであったし、生ぬるい交渉は北朝鮮に核開発の時間的余裕を与えることになるからハードパワーが不可欠だという結論になる。
全面戦争に発展する可能性は低いが、ワーストケースシナリオも想定した、戦争を回避するための幅広い戦略的ビジョンが求められる。
今まで繰り返し国際社会は北朝鮮へ経済支援を行ってきた。飢餓に直面する北朝鮮への緊急支援は人道の見地から当然だろうが、
北朝鮮の挑発行為がエスカレートするので、融和政策の修正が試みられている。
何故、北朝鮮は、軍事的挑発行為を本格化させてきたのであろうか。
第一に、南北間の経済格差を考慮すると北朝鮮が瀬戸際外交や軍事的挑発行為を継続しても、
韓国と比べ損失が少なく、いずれは韓国が妥協し、統一へのステップとしての同盟が成立するという見方。
第二に、北朝鮮にエネルギーや食糧支援を行っている中国にとって有利となる戦略を北朝鮮は行っている。
中国が懸念する米韓軍事演習や日米軍事演習を牽制する意味で、北朝鮮が中国の代理としての機能を果たしている。
第三に、政権移行期における脆弱を払拭する意味で軍事国家としての国家の形を内外に示した。
第四に、米国の歴代大統領が北朝鮮と本格的な交渉をしてこなかったことへの苛立ちがある。
例えば、ブッシュ1大統領は、Modest proposal (控えめな提案),クリントン大統領は、
Agreed framework(枠組み合意),ブッシュ2大統領は、Six party joint statement (六者合同声明),
オバマ大統領は、Strategic patience(戦略的忍耐)を行ってきた。
慨して、これらは、現状維持のための政策ではないだろうか。
北朝鮮問題が解決されない根本は、米中が現状維持を傍観してきたからではないだろうか。
また、中露も含む国際社会の北朝鮮への支援の目的は、北朝鮮の体制を変えることにあるからではないだろうか。
つまり、核兵器を保有した北朝鮮を交渉の舞台に導くためには、六者会合を通じ、
金体制の存続を認める意思を示すことが必要だと考えられる。
少なくとも戦争を回避し、来る本格的なアジア太平洋時代の到来を加速させるためには、
ブラックホールである北朝鮮を開発のラストフロンティアに変貌させるビジョン、
つまり、軍事的挑発を払拭させる大規模な経済協力が求められている。