9月 10
 政権交代は、自民党への批判のみならず、変化という世界の趨勢に則った当然の帰結である。日本という国家は、自然に恵まれた東洋の果ての島国であり、日本列島も島で構成されている。江戸時代の実例の如く、海外の依存度が低くとも繁栄できる国柄であり、地方分権に適している。しかし、戦後の日本は、外圧、特に米国の意向に従い、外圧を賢明に利用することで日本の平和と繁栄が形成されてきたと考えられる。
 
 敗戦国日本が、資本主義陣営の機軸として輸出加工型の貿易立国として発展を成し遂げたのは、優秀な官僚が明確なグランドデザインを構想し、実践したからである。そのグランドデザインは、前述したように官僚が米国の外圧を賢明にプラスに作用させたものであったと考えられる。
 
 冷戦後、時代が変化したにもかかわらず政治・官僚・財界で構成される鉄のトライアングルは、自民党・官僚主導・輸出加工を国是とし、変化に対応できぬ保身の術を貫いてきた。この失われた十数年の失策は、国家戦略の欠如に起因し、日本の官僚は優秀であるとの神話崩壊を導くものである。鳩山政権の船出にあたり、日本のグランドデザインを考察する必要がある。
 
日本社会のグランドデザイン
 先進国の大多数の国は、二大政党制による政権交代が頻繁に起こっている。保守・革新・中道が、時の社会・経済状況により変遷している。この変化の分岐点は、福祉などが充実するが増税の大きな政府か、経済発展や成長に重心を置く減税の小さな政府のどちらかの国民の選択により生み出されてきた。
 
 増税による大きな政府は、国家責任で国民を豊かにし、減税による小さな政府は、自己責任で繁栄を実現させる。日米の民主党は、前者であり、米国の共和党や自民党は、後者であり、日本も米国同様、二大政党制が理想であるとの見方もある。
 
 しかし、世界の多くの国と日本の違いは、単一民族と少子高齢化であるので、日本においては、成人まで、そして老後は、国家責任で教育や福祉の充実を徹底させ、働き盛りの勤労者に対しては、競争社会・自己責任で経済発展を成し遂げる政策、換言すると、大きな政府と小さな政府のブレンドを国家戦略とすることが賢明である。老後は国が責任を持ってくれれば、競争社会の中で思う存分仕事に打ち込めるのである。失敗も成功も時の運である。自分の意思で人生が進めることのできない成人までは、国家責任で教育の充実を図り、壮年期は自己責任、そして老後は日本国民として国家が責任を全うする。これが、日本社会のグランのデザインである。
 
地球益のためのグランドデザイン
 日本は資源を輸入し、製品に付加価値をつけて輸出で外貨を稼いできた。世界の富の配分を鳥瞰すると、日本は搾取する国であり、このベクトルを変化させなければいけない。日本の技術力を通じ、地球のために貢献することができるのは、地球環境の分野である。鳩山政権が目指す温室ガス90年度比25%削減は、外圧でなく日本の意志で、世界のトップクラスの日本の環境技術を世界に伝播し、日本と地球を豊かにクリーンにする地球益の適ったグランドデザインである。日本の国旗こそ、ソーラーエナジーや地球環境のシンボルの重要性を示している。
 
シンクタンクこそ国家戦略
 官僚が作成した縦割り行政による国家予算の策定には、国民の国民による国民のための生活向上が欠如されてきた。政・官・財のトライアングルにおいて、国民の代表としての政治が強化され、優秀な官僚を公僕とし、グローバル社会の中で企業が日本の技術力を発揮できる社会を創造する。政官財のそれぞれのパワーを国家の総合戦略として発揮するためには、市民のみならず日本のすべてのパワーを結集させ日本のグランドデザインを作るシンクタンクの役割が期待される。
9月 02
 2009年夏の終わりは、政権交代でスタートした。明治維新から140年、ついに日本の政治に地殻変動が起こり、市民のための市民による政権が生まれたのである。日本国内のみならず、世界が世界の中の日本の政権交代に注目している。米国、アジア、ヨーロッパとの国際関係と二大政党制の将来像を考察してみたい。
 
 一年前の米国は、リーマンショックの渦中にあり、民主党のオバマ旋風が吹き荒れていた。当時のオバマ候補は、共和党が推進する市場原理主義、軍事増強、減税、小さな政府に反対し、民を中心とした中低所得者を優遇する大きな政府と海外への軍事関与を抑制する政策を訴えていた。このように米国の民主党と日本の民主党には共通する政策が多く、日本の政権交代がスムーズに行われた背景には、リベラルな米国の民主党政権の中立な立場が幸いしていると考えられる。
 
 日米同盟において、より対等な関係を模索する日本民主党は、オバマ政権が掲げる外交・軍事・開発(Diplomacy,Defense,Development)の3Dを日米の包括的・戦略的互恵として新たなる日米関係を構築する必要がある。換言すると、イラク戦争の反省並びに過度の金融グローバリズムの推進をためらう米国にとって、日本が米国と協調しながら外交・軍事・開発の分野の対米依存から対等な関係へシフトすることに反対する理由はないと考えられる。
 
 とりわけ、米国の共和党は、鳩山政権が懸念する極端なグローバリズム、市場経済主義を米国の国益に背くと警告している。日本が米国の野党である共和党の意向にも耳を傾ける必要もあるが、今こそ、日米の両民主党の協調による東アジア共同体やアジア共通通貨構築を実現させる好機であろう。
 
 中国・韓国をはじめとするアジア諸国は、民主党の靖国神社を含む歴史観を支持しており、ロシアにおいては、鳩山一郎首相の日ソ共同宣言との接点があり、ヨーロッパにおいては、民主党の全方位外交や多国間の国連外交を評価している。特にフランスにおいては、自由・平等・博愛の精神から鳩山首相の「友愛」に親近感を感じている。要するに、鳩山政権の外交の機軸をなすと考えられる「勢力の調和」やソフトパワーは、世界の国際秩序構築のベクトルに適っている。
 
 日本の特徴は振り子が極端から極端に振れることである。従って、政治においてもこの4年間は小泉政権が推進した小さな政府から民主党の大きな政府へと大きく振れた。米国の民主党と共和党の二大政党制が示すように、必ず大きな政府による増税と小さな政府による減税が交互に発生する。自民党は米国の共和党と類似した中高所得者を優遇する政策並びに、企業や株式市場への刺激策による経済成長戦略を明確に示すべきである。
 
 80年代、米国が日本式経営に憧れたとき、「セオリーZ」による米国式経営と日本式経営の調和が研究・実践された。これを今の政治に生かすためには、日本は米国の共和党と民主党の優れた分野を研究し、それを日本の政治に導入する必要がある。スリムで流動的な官僚システム、教育・福祉の充実と弱者救済、経済刺激策による経済成長、地方分権などを実現するために、民主党政権は、自民党政権の負の遺産である政・官・財の癒着による膿やヘドロを徹底的に退治した後、4年後にはにヨーロッパ並みの高い消費税を導入し、低所得者層も消費税を通じた税金を払う代わりに手厚い福祉をも受けられる政策が実現されるときが到来しよう。