12月 29

ブッシュ大統領が、イラク、イラン、北朝鮮を「悪の枢軸」としてならず者国家のレッテルを貼り10年近くの時が流れた。
その間、イラクへは、大量破壊兵器の保有を口実に先制攻撃を行い、米国は大失策を演じた。
イランに対しては、イラク問題が影響し、袋小路に入ったままである。
北朝鮮に関しては、米国の一連の外交・安全保障の失策を梃子に瀬戸際外交に拍車をかける結果となっている。

北東アジアは、朝鮮半島の38度線を境に勢力均衡型の安全保障により紛争が抑止されてきた。
しかし、米国の影響力の低下と中国の経済力、軍事力の著しい上昇により勢力均衡が崩れ、
不確実性要因が高まっている。そのような国際情勢の変化を如実に示すかの如く、
北朝鮮は韓国の軍事演習を口実に1953年の一時的停戦協定以来、はじめての地上への砲撃を行い、韓国は砲撃で応戦したのである。

この非常時において、ニューヨークタイムズやワシントンポストの紙面で、
東アジアの専門家は、多角的視点で北朝鮮の暴走について論じている。
北朝鮮に対し最もソフトなアプローチは、米朝の直接対話と交渉により、米朝の不可侵条約を結ぶ事により、
北朝鮮の核開発や瀬戸際外交に歯止めをかけることができるという論調がある。
加えて、北朝鮮は貿易や投資といった経済活動を通じて富国を目指しており、国際社会は、
北朝鮮の市場経済化に向けた活動を支援することにより紛争を回避出来るという考え方がある。
北朝鮮という国家を性善説により考察した場合、このような経済協力を主眼としたソフトなシナリオが成立する。

また、北朝鮮を性悪説の視点で見れば、例えば、1994年の金日成から金正日の権力移行期の核開発の予兆期に軍事介入を
すべきであったし、生ぬるい交渉は北朝鮮に核開発の時間的余裕を与えることになるからハードパワーが不可欠だという結論になる。

全面戦争に発展する可能性は低いが、ワーストケースシナリオも想定した、戦争を回避するための幅広い戦略的ビジョンが求められる。
今まで繰り返し国際社会は北朝鮮へ経済支援を行ってきた。飢餓に直面する北朝鮮への緊急支援は人道の見地から当然だろうが、
北朝鮮の挑発行為がエスカレートするので、融和政策の修正が試みられている。

何故、北朝鮮は、軍事的挑発行為を本格化させてきたのであろうか。
第一に、南北間の経済格差を考慮すると北朝鮮が瀬戸際外交や軍事的挑発行為を継続しても、
韓国と比べ損失が少なく、いずれは韓国が妥協し、統一へのステップとしての同盟が成立するという見方。
第二に、北朝鮮にエネルギーや食糧支援を行っている中国にとって有利となる戦略を北朝鮮は行っている。
中国が懸念する米韓軍事演習や日米軍事演習を牽制する意味で、北朝鮮が中国の代理としての機能を果たしている。
第三に、政権移行期における脆弱を払拭する意味で軍事国家としての国家の形を内外に示した。
第四に、米国の歴代大統領が北朝鮮と本格的な交渉をしてこなかったことへの苛立ちがある。
例えば、ブッシュ1大統領は、Modest proposal (控えめな提案),クリントン大統領は、
Agreed framework(枠組み合意),ブッシュ2大統領は、Six party joint statement (六者合同声明),
オバマ大統領は、Strategic patience(戦略的忍耐)を行ってきた。
慨して、これらは、現状維持のための政策ではないだろうか。

北朝鮮問題が解決されない根本は、米中が現状維持を傍観してきたからではないだろうか。
また、中露も含む国際社会の北朝鮮への支援の目的は、北朝鮮の体制を変えることにあるからではないだろうか。
つまり、核兵器を保有した北朝鮮を交渉の舞台に導くためには、六者会合を通じ、
金体制の存続を認める意思を示すことが必要だと考えられる。
少なくとも戦争を回避し、来る本格的なアジア太平洋時代の到来を加速させるためには、
ブラックホールである北朝鮮を開発のラストフロンティアに変貌させるビジョン、
つまり、軍事的挑発を払拭させる大規模な経済協力が求められている。

11月 07

2012年は、世界の主要国のトップが同時に交代する年である。
中国では、習近平国家副主席が最高主導者の地位を固め、ロシアでは、
プーチン首相が再度、大統領に就任し長期政権を確立する可能生が高いと考えられている。

米国の中間選挙の結果が示すように2年後の大統領選においては、
共和党が優位な状勢が予測できる。日本においても米国と同様に、
チェンジや政権交代のフレッシュな民主党のイメージが消えあせている。
米中日露のアジア・太平洋の4大国のリーダーに関しては、
冷戦時代の社会主義陣営である中露が安定し、日米が不安定な政情になると考察される。

オバマ旋風以来、日米の政治が妙に連動ているようである。
日米ともに民主党政権であり、経済状勢が悪化する中、国民は福祉国家という大きな政府を選択したが、
その期待を裏切るかの如く、日々の生活の礎が揺らぎはじめている。
それでいて、日本には米国の共和党のような小さな政府、減税、そして保守的な価値観を示す政党がない。
ということは、米国に否応なしに追随する日本においても2大政党が本格化する可能性も高まるのではないだろうか。

戦後の米国の民主党、共和党の政権交代を展望すると興味深い傾向が見えてくる。
戦後、大統領選が16回行われた。民主党が7回、共和党が9回勝利した。
その間、2期8年間の大統領の最長任期を全うしたのが民主党ではクリントン大統領だけであるのに対し、
共和党は、アイゼンハワー大統領、ニクソン大統領、レーガン大統領、ブッシュ大統領と長期政権を行ってきた。

日本においては、自民一党支配の反動から民主党が政権を担ったが
その継続性は不確実である。問題は、政権が揺らいでいる時に、
中露のように政治的に安定している国家が、尖閣諸島問題や北方領土問題を軍事力、
外交術を駆使して日本を翻弄させる戦略に出たときにどうのように対処するかである。

2012年は、国際情勢の分岐点である。ベルリンの壁崩壊、911同時多発テロ、
リーマンショックとイデオロギー、国際テロ、宗教対立、国際金融の分野でパラダイムが大きくシフトした。
これらの複雑な問題を解くキーとなってきたのが、何といっても多国間外交であった。
米国の覇権主義によるイラクへの先制攻撃が失敗したように、
予測可能な中国の覇権主義にも限界があるだろう。

世界の潮流を鑑みると、日本の課題は、多国間協力の現場で実績をあげることである。
今月は、京都でAPECの財相会議、横浜でAPECの首脳会議が開催される。
その多角間外交の舞台と並行し、米中露等の首脳会談も行われる。
今月は、日本にとって外交ラッシュであり、円高、領土問題 等の問題に取り組む好機である。
このような多国間外交の分野でヒットやホームランを放つことでこの20年程、
日本を覆っている閉塞感を払拭することも可能となろう。

多国間外交の舞台で重要なのは、日本の存在感を示すことであり、
グローバル社会における日本の地球規模の貢献を明確に示すことである。
本質的には、多国間外交の場において発生する首脳会談にて、
タイムリーな問題を両国の共通の利益の合致点を見出し信頼醸成を構築することである。
2012年に向け、中国やロシアは安定感のあるリーダーを生み出そうとしている。
従って、日本の首脳に必要なのは多国間外交や多国間協力を通じ、
喫緊の領土問題や円高等の国際経済を解決する見識と実行力であろう。

10月 17

日中間には戦略的互恵が存在し,両国のwin-winが導かれるための外交手腕が期待されている。
しかし、戦略的な対立が日中関係の溝を深化させているのが現実である。
中国船が日本の領域を侵害したので、日本は、国内法に則りその船の船員を拘束した。
当然のことながら、原因と結果があるように、中国船員を拘束することから発生するであろう
問題を予測できたはずである。

ワシントンのシンクタンクで習得したことは、平和のためのシナリオを描くことと、
最悪、最善、落とし所など、多角的なシミュレーションを想定することであった。
今回の尖閣諸島問題は、中国が挑発したものの日本が拘束という口火をきった。
碁でいうと日本が先手を切ったのである。
民主党のリーダー選出に伴う、外交の空白があったかもしれないが、
少なくとも安全保障に関わる分野においては、尖閣諸島問題に対応する国家戦略の
シュミレーションが描かれていることを信じたい。
日清戦争以来の領土問題のとげが生み出した日中関係の本質的な解決策はあるのであろうか。

中国漁船を拘束、軍事管理区域に侵入したとして日本人4人が拘束、
ハイテク製品に不可欠なレアアースの対日輸出禁止、中国人船長を処分保留のまま釈放、
拘束された日本人の3人が釈放。
この様な駆け引きが続くなか、日中を取り巻く国際環境の変化は、
日米安全保障条約と沖縄の基地問題の重要性の認識、対日領土問題を抱える中露の接近、
竹島問題を抱える韓国が領土問題で中国に接近、尖閣諸島の領土問題の歴史認識で台湾と中国が接近、
東南アジア諸国は、南沙諸島問題で中国の強硬な姿勢が予測できることから日本に接近。

日本国内に於いては、中国脅威論が高まると同時に、国防体制を根本的に考える機会とし、
日本の安全保障を一層米国に依存する必要性があるとの考えと同時に、
独自の国防体制を強化させるという考えが交錯している。
政党を超え、安全保障問題で保守とリベラルの対立軸が明確になりつつあり、政治の分裂が深刻化している。
一方、中国に於いては、日本との領土問題をクローズアップする程に、
中国国内の結束が高まるという日本とは逆の方向に向かっている。

世界2位と3位の経済大国が領有権の問題で対立することで、漁夫の利を得るのは、
東アジア市場のシェアを伸ばそうとする欧米ではないだろうか。
加えて、日中間の緊張が高まることで米国の基幹産業である軍需産業が活性化されるのではないだろうか。

21世紀はアジア太平洋の時代であり、とりわけ世界は中国を注視している。
中国のパワーが上昇し、日本のパワーが下降している。
恐らく近代で中国が最も優位な位置にあるのが今日の日中関係ではないだろうか。
従って、欧米の対アジア戦略を解読し、アジアの中の日本、世界の中の日本を客観的に展望し、
日中のwin-winを創造しなければいけない。

短期的には、日米の絆をより強固にし、中長期的には中国の拡張政策を抑止する
日本独自の世界が賞賛する安全保障を描く必要がある。
その骨格は、国家と地球を同時に守るという新しい安全保障である。
日本列島周辺に地震ベルト地帯が集中している。
将来、必ず大地震が発生する。自然災害が発生した時に、早急に出動できる救助隊(リスキュー隊)があれば、
大地震の被害を最小限に食い止めることが可能となる。

例えば沖縄にその救助隊を置く。それは、世界で自然災害が発生した時に、
出動できる救助隊とし、その救助隊は多国籍で構成する。
具体的には、2025年を目処に米軍の沖縄撤退を目指すと同時に、
世界のコンセンサスを得て、国連の機関として地球リスキュー隊を創設する。
その部隊は、発生するであろう日本の大地震を救済すると同時に、
中国や世界で発生する自然災害にも貢献する。

核兵器の廃絶が提唱され、従来の国家を軍事力で守るという考え方にも変化が観られる。
国家間の領土問題解決には、どの国も共通する地球規模の自然災害に地球益としての
戦略的互恵を築くことが求められているのではないだろうか。
とどのつまりは、国家を守るためには、軍事力が必要であるが、その軍事力が
自国を守ると同時に世界を守るというパラダイムのシフトが肝要なのである。
これが欧米の安全保障ではなく、日本的な世界で通用する安全保障になることを期待したい。

9月 11

異常な猛暑が続く中、政治も経済も社会も地球環境の異常に連動しているようだ。
世界を見回してみても、とりわけ、円高や不確実性の高い政情など日本の異常が突出している。
この異常を乗り越えるビジョンや戦略思考が今の日本に存在しているのだろうか。
シンクタンク的な思考では、「平和や安定や発展は、取るべきなり」である。
受身的な考え方では、加速度的に進展する国際情勢の変化に乗り遅れてしまう。
一昔前は、Japan as number one と世界から注目さていたのに、
今の日本は、経済力で中国に抜かれJapan as number threeになったどころか、
日本の総合力が急速に萎縮している。
そこで、現代の日本を「世界の中の日本」として多角的視点で考察してみたい。

経済に関しては、異常な円高の影響で、輸出依存型企業の業績
が悪化の一途をたどっている。
天然資源に恵まれぬ日本にとって輸出産業は日本の経済の柱である。
財政赤字に加え、イノベーションの低迷により日本企業の国際競争力が
低迷しているにもかかわらづ、円高が進行している。
世界経済の分野で熱戦が繰り広げられているとすると、
日本の経済戦略の不在が敗走へと導いているようである。

では、円高を抑止する現実的な施策として為替介入があるが、
そのような既存の小手先の行動では、本質的な是正につながらない。
そこで、異常な円高のメリットを活用して、海外の資産を戦略的に買収することが、
円高の抑制に直結すると考えられる。
一部の優良企業は、水面下でこのような攻めの企業戦略を実践している。
つまり、円高のメリットとデメリットを戦略思考することで、
危機からの脱出と進展への潮流を生み出すことが可能となるのである。

次に話題の民主党内の分裂について考えてみたい。
民主党が政権を取りはや1年が経過した。その間、二大政党制や官僚機構
からの脱却など期待はされたものの現実的には、マニフェストに掲げられた
公約が守られず、国民の不信感が募り、政権後退が著しい。

そこで、いよいよ小沢前幹事長が20年以上かけ練ってきた政治の
大勝負の幕がきられたのである。この与党内の内紛劇が、吉と出るのか凶とでるのか。
ただ、小沢氏が勝利しない限り官僚機構が漁夫の利を得ることになろう。

世界から日本の政治を鳥瞰すれば、官僚と一枚岩となり一党独裁を続けた
自民党 も民を中心に据える民主党も首相が頻繁に交替する点で同じであり、
加えてビジョンや世界に通用する戦略が欠如していることからも
世界における日本の地位低下は自明の理であると映る。

20年以上、海外で暮らし、それなりに世界の中の日本を観てきた。
明らかに、日本人の本領を発揮し少しでも世界平和のために貢献できる
国際環境の局面はあったし、また必ずその好機は到来する。
換言すると、イラク戦争にみられたように一神教同士の争いや、
近い将来に起こるだろう東西文明の衝突を調停する日本の役割は、
日本人が考えている以上に期待されているように思われてならない。
そのような能力を龍馬伝に例えるなら、薩長同盟のように
調和を推進すると同時に実利的な行動力である。

日本という国家主権を考えれば、政治や経済の分野も芳しくなく不満が充満する。
ついつい実らぬ他力本願になりがちである。しかしながら、21世紀の今日、
国境の壁が低くなり、大多数の国において市民が自由に往来することが
可能となったことを鑑みると、地球市民やコスモポリタンとして
国益を超越した地球益のための行動として
日本人のそれぞれが持つ調和という能力を発揮できるように思われる。

世界の民族的なパワーを大きく観た場合、アメリカの背後に存在する
ユダヤのパワーと中国の興隆を支える華僑のパワーが世界の中軸に
影響を与えていると考えられる。願くば、このような異なる勢力を
調和させる戦略を日本或いは、地球市民としての日本人が描き実践されることを期待したい。

8月 27

京都の三大祭りは、新緑の葵祭、夏の到来を示す祇園祭、京の秋を彩る時代祭。
京の祭りには季節のアクセントがある。
平安貴族の伝統を継ぎ五穀豊穣を祝う葵祭、疫病を鎮める祈願を込めた祇園祭は
千年を超える歴史がある。しかし、時代祭りの歴史は、百十五年と浅い。
近代に始まった時代祭りのルーツを探り、その歴史的位置付けを考えてみたい。

文献によると時代祭りの始まりは、1895年に第四回内国勧業博覧会が
京都に行われることに由来する。それが平安遷都千百年とも重なり、
平安神宮が創建され、その記念事業として時代祭りが始められたとある。
さて、そこで、このお祭りが当時の時代背景の中で、
誰の発想により生まれたのか興味が湧いてくる。

明治維新後の京都は、天皇は東京に移り、かつての文化の求心力が急速に衰えていた。
それを嘆き京都の復興を、地域振興策として具現化させたのが、
京都出身で明治維新の立て役者の岩倉具視であった。

明治維新から3年後に岩倉具視は、維新の英雄・豪傑と1年9ヶ月余りをかけ
岩倉使節団の団長として、欧米の視察を行った。
目的は、欧米の科学技術を短期間で習得し新生国家のデザインを描くことにあった。
岩倉一行は、欧米の科学技術や文明に圧倒されはしたものの、
欧米では成し遂げられなかった無血革命に近い明治維新に触れ、
日本の精神的進歩すなわち日本のこころが物質的進歩を凌駕すると認識したのである。

今でいう外務大臣として世界を視察・観察した岩倉具視は、
東京遷都で荒廃する京都の復興を考案するために1ヶ月近くの現地調査を行ない
「京都皇宮保存に関する建議」を作成した。
京都御所内に平安神宮を造営する計画や葵祭の再興、京都の人々が
演芸奉納の形で参列できる内規を作るなどが描かれている。
これが最晩年の右大臣岩倉具視の京都への貢献であり、欧米のみならず
アジアを漫遊しながら世界を観たからこそ生まれた世界の中の京都の視線であったが、
岩倉具視の死去により、平安神宮創建等の計画の他は実現しなかった。
ところが、約10年の時を経て、内国勧業博覧会や平安遷都の記念行事として
京都の歴史絵巻を内外に表現する時代祭として岩倉具視の発想と意思が生かされたのである。

時代祭の行列は明治維新から平安遷都まで7つの時代を遡る18の列で構成されている。
時代祭は桓武天皇が長岡京から平安京に移された10月22日に行われことからも
時代祭りのクライマックスは、延暦であると考えられる。
紫竹は、その延暦文官の重要な役割を担っており、それが24年毎に巡ってくるのである。

時代祭りの動く歴史絵巻を観ながら千二百年の京都の歴史を学ぶことができるのみならず、
その時代の着物、先人の表情から時空を超越した時代の空気を感じとることができる。
京都の町内会が順番で時代祭りに関わることで、
伝統文化の継承と文化の創造と発展が約束されるのである。
何よりも行列に参加することで、タイムマシンに乗ってその時代の人になりきることが楽しみである。

世界は広く、京都は深い。時代祭を通じ伝統に培われた京都の魅力を世界に発信することで、
京都の地域振興並びに日本の安全保障と世界平和のための一助になるのではないだろうか。

8月 06

被爆から65年を経た今年の広島・長崎は、熱い。オバマ大統領と
直につながっているルース米国大使や潘基文国連事務総長の平和
記念式典への出席は、核軍縮に対する国際世論が熟してきている
ことを意味している。ここ数年の核廃絶に対する動きは何を意味
しているのか。原爆投下後も、ピーク時には約8万発の核爆弾が
製造されたが、何故一発も使用されなかったのか。被爆国日本に
よる世界平和のための明確なメッセージを世界に発する時が到来
しているのではないだろうか。

安全保障の核は、核問題である。イラク戦争の発端も、アフガニ
スタンに絡む国際テロも、全人類の脅威に繋がる大量破壊兵器の
問題である。これらの脅威は、冷戦中の米ソによる核兵器の勢力
均衡型で抑止可能なものでなく、世界全体で取り組む世界平和へ
の共通の課題である。

オバマ大統領により核廃絶が提唱された昨年4月のプラハ演説は、
安全保障の歴史のページを新たなものにした。オバマ大統領が
議長役を務め成果を上げた国連安全保障理事会、オバマ大統領の
ノーベル平和賞受賞、オバマ大統領主導による核安全保障サミット、
国連の場で広範囲に議論されたNPT( 核不拡散条約) の再検討会議
など、米国と国連が連携した核軍縮への働きかけが具体化している。

興味深いことは、唯一の核使用国である米国が道義的責任として
核廃絶に向けたイニシエティブを取っていることである。来たる
広島の式典において、米国の大使が初めて出席するのは、核廃絶
への動きのみならず、安全保障に対するパラダイムが大きくシフト
しているからである考察される。今まさに広島、長崎は世界平和
の主役なのである。

7年程前に、ワシントンのシンクタンク主催の核軍縮に関する
セミナーに出席した。その時、核戦争が抑止されてきたのは
MAD(相互確証破壊)が機能したから等の議論がなされていた。
それだけでは納得がいかなかったので、「戦後、地球をも破壊する
核兵器が製造されてきたが、一発も使用されることはなかったのは、
人類が広島と長崎の被爆による核兵器の脅威を実感したからである。
日本が最大限の世界平和に貢献したことは、広島・長崎の被爆に
よる核戦争の悲惨さであり、被爆者のお陰で核戦争を回避されて
きたのである。」と述べた。この実にシンプルな主張に対し、
反論はなかった。

1985年に核兵器の廃絶を訴えた医者の団体である核戦争防止
国際医師会議( IPPNW)がノーベル平和賞を受賞した。この団体の
中心人物等が今年のノーベル平和賞に広島と長崎の市長が推進す
る平和市長会議を推薦している。核軍縮に関するノーベル平和賞
を受賞した個人や団体は、過去9回あり、昨年は、核兵器を投下
した国の大統領が受賞しているのである。

オバマ大統領は、核廃絶に向け着実に成果を上げている。平和の
礎と考えられている日米同盟は、核の投下国と被爆国という奇妙
な関係にある。被爆国である日本は、米国が主張する核廃絶を
圧倒するぐらい核廃絶を提唱するに値する国である。
にもかかわらず日本国内の論調に接していると、米国の核の傘に
守られている故に核廃絶に躊躇する日本や保守革新のイデオロギー
の対立が未だ存在しているようである。世界に向けた明確な
シグナルがない。

世界の世論が核廃絶に向かっていることを鑑みれば、今こそ市民
が核となるオールジャパンとして、被爆国日本が核廃絶に向けた
強烈なイニシエティブを示すべき時であろう。失うものは何もな
い。これこそ日本が世界に示す、最も率直な平和活動であろう。
今年のノーベル平和賞に最も近いのが広島・長崎であり、特に、
被爆者の人々が核廃絶の功労者であると歴史に刻まれるべきであ
ると考えられる。

6月 11

鳩山首相辞任に伴い日本の政局が揺らいでいる。外に目を向け
ると、北朝鮮の攻撃で韓国の哨戒艦が沈没し、日本の目と鼻の
先にある朝鮮半島の緊張が極めて高まっている。このような内
外の不確実要因が同時に進行するという喫緊の状況の中、内外
の情勢の変化を読み解き、日本の羅針盤を明確に描くことが大
切である 。

米軍の県外移設という鳩山首相の公約が破棄されたということ
は、アジアに軸足を置くという政策から、再び日米同盟重視に
振り子が戻されたことを意味する。その背景には、中国の驚異
的発展に伴う経済的・軍事的脅威と、北朝鮮が示す南北関係の
全面閉鎖や不可侵合意の全面破棄、そして北朝鮮を孤立させる
ための国 際社会の包囲網づくりなどがある。

ベルリンの壁が崩壊し20年以上経過したが、未だ朝鮮半島には38
度線を境に冷戦構造が残存している。しかし、その勢力均衡の
構造も中国の突出した発展により徐々に崩れようとしている。
的確に表現すると上海を中心とする経済的ネットワークの拡張
のみならず、上海協力機構が示す中国、ロシア、中央アジア、
そして次第にインド、イラン、モンゴル、東南アジアをも包括
する安全 保障体制が構築され、ひいては、その勢力は朝鮮半
島にも及ぶ可能性が増しているのである。

日本が示す東アジア共同体は、ユーラシア大陸の中心に位置す
る中国パワーにより飲み込まれてしまう可能性も否定すること
はできない。つまり、米国発の世界経済危機とヨーロッパを覆
うギリシャやスペイン等の問題は、相対的に中国勢力の向上に
寄与しているのである。

それが世界の潮流である。米国もヨーロッパも中国と緊密な関
係を保つことで相互補完的な繁栄が実現できると考えているの
である。そのように多角的視点で日米中の三角関係を考察する
と、日本が米国を重視するか中国を重視するかという選択の問
題でなく、米中の連携が強化されることにより日中関係と日米
関係も恩 恵を受けることができるという柔軟な外交戦略を実
践することが肝要であろう。

日本と中国の両方の大学で教えている中国人の友人が、最近の
上海の発展に接し、「この20年の間、日本は何をしてきたのか
」と経済発展における日中の明暗にため息をつきながらも内心
喜びの笑顔を浮かべていた。明らかに日本は、更なる経済発展
の好機を見事に逃してきたのである。つまり、日本が安全保障
のみならず経済分野においても米国への依存が高すぎたことが
、経済発展を遮断してきたのであろう 。更に、米国の共産主
義封じ込め政策の恩恵を受けてきた日本が、日本の戦略的思考
を麻痺させたのかも知れない。

日本を取り巻く国際情勢は激しく変化している。そんな時、日
本は米国への連携を高める極を大切にすると同時に中国との協
力も高める極を同時並行的に推進することが求められている。
一方の極に傾くのでなく、両極のバランスを考え広く柔軟性の
ある政策が必要なのである。

中国には、北京を中心とする共産主義のパワーがあり、上海を
中心とする経済発展に関わるネットワークチャイナがある。二
つのパワーが調和しているのが中国の発展の源泉である。同じ
ように、日本にも、とりわけ安全保障の側面においては米国依
存が得策と考える勢力があり、同時に21世紀はアジアの時代と
考えアジアを機軸に置く勢力がある。要は、この二つの勢力を
調和させる戦略を示す羅針盤が不可欠なのである。

5月 10
日本のメディアの論調は、国内の沖縄問題が中心であり、世界の中の日本が果たすべき安全保障の役割の視点が欠如しているようである。よって、メディアや地方の動向に左右されてはいけない安全保障、世界の安全保障の潮流、日米同盟の重要性と沖縄の役割、将来の安全保障のあり方の四つの視点で考察することとする。
 
メディアや地方の動向に左右されてはいけない安全保障
沖縄の米軍基地移転問題で揺れ動く沖縄県民をクローズアップで観れば半数以上が米軍撤退を求めるように報道されている。安全保障という国家の存続に関わる問題を、民主主義や地方選挙で導くという与件の立て方に根本的に問題があるのではないだろうか。
 
先の戦争から今日までずっと沖縄は、戦争と安全保障において日本の犠牲になってきた。にも拘らず沖縄の一人当たりの所得は47都道府県の最下位であり、東京の半分以下である。安全保障の犠牲という沖縄の立場で考えると米軍基地の県外移転は至極当然のことであり、沖縄県民の半数以下が程度に差があるものの米軍の駐留を肯定している点も考慮すべきだと思う。
 
米国で7年生活した感覚で、一般的なアメリカ人が日本やアジアのために米軍を日本に駐留させることを望んでいるかと問いかければ、恐らく8割のアメリカ人はNOと答えるように思われる。国の存続に関わる安全保障は、世界の中の日本の役割やパワーという長期的な国家戦略としてのビジョンがなければ大きな犠牲を被ると考えられる。
 
世界の安全保障の潮流
オバマ大統領が唱える「核なき世界」がプラハ演説、国連安全保障理事会、米露核軍縮条約、核安全保障サミットと着実に進展している。本来なら被爆国である日本が先導すべき安全保障問題を同盟国である米国が推進しているのである。このように世界の安全保障の潮流が、日本と深くかかわり、ブッシュ共和党政権と異なりオバマ民主党政権が核廃絶という日本のベクトルに適っているのに沖縄問題の優柔不断さで日米関係が悪化していることに憂慮すべきである。
 
日米同盟と沖縄の役割
安全保障という歴史のリズムを展望すれば、二十世紀初頭の日本の安全保障は日英同盟により成立した。戦後、米国の共産主義封じ込め政策の恩恵を受けながら、日米同盟が発展してきた経緯を考察すれば、最も効率的で最善の安全保障であったと云える。日米同盟の基軸が沖縄であるとすると日本の安全は沖縄により保障されたのであり、その沖縄に対し期限を決めて沖縄に米軍を駐留させるという必要条件で日本は、生活水準の向上につながる実質的な支援策(沖縄の所得倍増)を実施することが不可欠である。
 
将来の安全保障のあり方
 
アインシュタインが予測したように、第三次世界大戦が起これば大多数の人間が滅亡するかもしれない。これを回避するために賢明な相互依存型の抑止力が機能し、戦争勃発の可能性はかなり低下する。むしろ、地震等の自然災害による危機の方が深刻である。国家主権や集団安全保障という枠を超越し、近未来の安全保障のあり方を地球益として展望すれば、米軍に頼る安全保障のあり方から、日本が世界に誇れる地球のための自然災害に関わる安全保障にパラダイムシフトする必要がある。
 
現時点では日本の安全保障の最善策は、日米の協調である。沖縄の犠牲と役割を正当に評価し、実質的に沖縄県民の生活が豊かになる所得倍増計画を示す必要がある。2025年までに米軍に頼らず日本や地球の安全を保障するグローバルな自然に関わる安全保障と日本を防衛する自衛隊に類似する地球レスキュー部隊の創設が求められる。沖縄問題は日本の安全保障を考える絶好の機会であろう。
4月 28
 日本の人口が減少に転じ、少子高齢化が問題視され経済成長の悲観論が蔓延している。これらの問題を解決するためには、日本の移民政策や外国人参政権の問題を再考しなければいけないとの見方もある。21世紀の今日、日本において人口が減少するということ、また経済成長が鈍化するということは大きな問題だろうか。
 
 人類の百万年の歴史において、世界の人口が70億人に到達するまでに人口の倍増が31回繰り返されてきた。倍増するのに要した時間が平均3万年だが、この39年で世界人口が35億人から70億人に倍増している。地球レベルで人口論を考察すれば、明らかにマルサスが指摘したように、人口の増加に食料や資源供給が追いつかず人類の幸福が損なわれると考えられる。
 
 ワシントンコンセンサスが示した市場原理主義による米国主導型の資本主義が幸福の原動力になるという見方には限界がある。また、人類が豊かになることにより人口が抑制され成長が持続されるという先進国中心の考え方にも疑問を感じる。
 
 このように米国中心のグローバル化が衰退し、中国やインドを中心とするアジアの時代が到来すると言われているが、果たしてそうであろうか。この点に関して、ニューヨークタイムズのコラムニストのトーマス・フリードマンは、ユニークな考えを移民問題の視点から語っている。
 
 インテルが全米の高校を対象に科学と数学の分野で優れたベスト40の高校生を選抜し、ワシントンのディナーパーティーに招待した。驚くことにほとんどすべてが中国やインドからの移民であった。最優秀に選ばれた高校生は、宇宙船におけるエネルギー効率というトップの科学者顔負けの論文を書いたという。このインド人曰く、米国が抱える問題は、我々若い世代が解決すると。
 
 米国の発展の根底には、世界中から優秀な移民を惹きつける開かれた移民政策にある。とすると理想としての世界連邦こそ米国の魅力であると考えられる。グローバル経済の勢いは太平洋を渡りアジアにシフトしているが、世界の優秀な移民を惹きつける磁力を有する米国は、アジアとの融合において大きな力を発揮すると考えられる。
 
 
移民政策を日米の双方で比較してみた場合、陰と陽とに表現できるほど両極端である。日本は米国を真似、米国は日本を真似たこともたくさんあったが、こと移民政策に関しては、全く異なる政策が採られてきた。
 
日本が抱える少子高齢化と移民政策について概して4つの視点がある。第一、現状維持、第二、少子高齢化の問題を解決するためには積極的に移民を受け入れる必要がある、第三、移民や外国人の地方参政権を厳しく制限することが日本の持続可能な社会を形成する、第四、状況の変化を柔軟性を持って捉え、特定の分野、例えば福祉・介護などの分野の移民を導入する。
 
 国連の推定によると世界の移民は全世界の3%未満。97%は生まれた国に住んでいる。ユーラシアの東の果てに位置する島国日本の移民政策は、日本人の特徴に立脚すると世界の水準より厳しくて当然である。
 
 今、長期的視点に立って移民政策のビジョンを描くにあたり、日本の価値観の本質にある自然との共生を第一に考えることが肝要であろう。即ち、世界が直面している極端な人口増加や資源枯渇、環境破壊を回避し、市場原理主義の限界を受け入れ、持続可能な社会を維持するために使い捨て文化から物を大切に使う文化へのシフトと質素な生活を支える地産地消が大切となろう。
 
 このように日本の価値観の座標軸を明確にすることにより、状況の変化に応じた柔軟性のある移民政策が実現されるであろう。
 
3月 07

GMを超え世界一の企業となったトヨタが、米国の異常なバッシングに直面している。フロアマットの不具合から急加速問題、ステアリング問題、リコール回避による不正利益捻出と次から次へと問題が浮上し、通常のリコール問題の領域を超えている。トヨタたたき騒動は、米国の消費者からマスコミ、そして米国政府まで拡大し、経済問題から社会問題、そして国際政治問題へと発展する勢いにある。異常事態の中で、ワシントンの下院・上院の公聴会でトヨタの証人喚問が始まった。

 2002年から2008年まで、筆者は米国のシンクタンクであるブルッキングス研究所やジョージワシントン大学などの客員研究員としてワシントンに滞在し、日米中の国際政治力学を研究する一環としてキャピタルヒルで開催される公聴会を頻繁に傍聴して、公聴会独特の空気に触れることができた。そこで、公聴会の様子並びにワシントンのシンクタンクで多角的・重層的なビジョンを構築することの重要性を指摘したい。

 公聴会の委員長すなわち民主党の議員が配布される資料をもとに証人喚問の経緯・目的などを読み上げ、引き続き副委員長である共和党の議員が説明を加え、通常、議員の当選回数の序列順番で議員が質問する。いくつかの委員会を兼ねている議員も多く質問の時だけ席に着くことから、類似した質問が行われるケースもある。証人による偽りの答弁を避けるため、いかにもキリスト教国家らしく宣誓を命じるケースもあり、緊張感が高まる。また、その緊張感をほぐすように、インフォーマルなジョークやアドリブもある。あらかじめ準備された質問の他に、証人の答弁を追及し、その場でしか味わえない予測不可能な質問もなされ、民主党・共和党の攻防のみならず地域を代表する利益が渦巻くことが公聴会の醍醐味でもある。

 シンクタンクでの研究のために公聴会を利用していたのだが、振り返れば、日本企業が公聴会でスケープゴートのように公にさらされることをワーストケースシナリオとして予測することができた。しかし、公聴会を傍聴する日本人が余りにも少ないことは驚くばかりであった。孫子の兵法にあるように、優れた戦略家は状況全体を細部まで知り尽くし戦う前から勝利を確実にするとある。ワシントンの公聴会をモニターしている日本人や企業人も必要ではないかと痛感した。

 メディアは、品質第一を掲げながら安全よりコストを優先したトヨタの隠蔽体質を道義的問題としてクローズアップしている。その背景には、現実に世界一になったトヨタたたきと、自動車産業全般の再構築に値するハイブリッドカーなど、地球環境にやさしい自動車市場を抑止する力学が働いている。一方、全米トヨタ工場で働く17万人の雇用問題もあって公聴会をより公平なものにすべきとする動きもある。さらに、問題の背景には、日本の民主党政権が優柔不断な態度で臨む沖縄問題、ひいては日米同盟の問題、さらに中国市場に焦点を合わせた米国の東アジア戦略など、多角的・重層的な問題にも起因していると受けとれる。

 トヨタ問題は、誠意ある説明責任で決着がつくという単なるリコール問題の範疇に留まれば、日本企業にとって対米戦略及び世界戦略の良きレッスンとなろう。しかしながら、今回の問題で認識すべき重要な課題は、経済・外交・安全保障が渦巻くワシントンの空気を解読し、シンクタンクを通じた戦略的ビジョンとワシントン人脈の構築、そして予測される最悪の状況を回避し、最適な企業環境に導くための人材を育成することではなかろうか。

 ワシントンのシンクタンクなどに席を置きながらキャピタルヒルの公聴会に精通することは、一見、利益追求型の企業にとっては「遊び」と思われがちだが、そのような環境で人材を育ててこそ、企業の命運を分ける緊急事態の特効薬になろう。トヨタ問題を契機に、企業内シンクタンクや官庁系研究所の範疇に留まらず、現場中心の実践型シンクタンクに座標軸をシフトして、国際的かつ多角的・重層的な課題に取り組む人材が育成されることを期待したい。