4月 05

ハーバード大学やMITなどのエリート大学の学生が京都の禅寺に勉学の一環として100人規模で押し寄せている。何故、今、禅が米国の学生達に注目されているのであろうか。

 半世紀前にも米国で禅のブームが起こった。英語が達者である上に禅をシンプルに捉えた鈴木大拙和尚の功績が大きい。哲学としての禅が多くの若者達の核心を突いたのであろう。

 現在の禅ブームは、スティーブ・ジョブズ氏の影響大である。自叙伝の中で禅が呼び起こす直感力に感銘を受けたことなどが記されている。また、インドに旅しヨガやオリエンタルな思想を好み、そして京都の魅力にとりつかれ禅寺や文化を通じインスピレーションに磨きをかけたことなども文脈から伝わってくる。

 アップルの製品は実にシンプルである。禅という漢字は、しめすへんに単(シンプル)で構成されている。即ち、禅を通じ複雑なことをシンプルに捉える直感力を探求したところにジョブズ氏の成功の一端があるのではないだろうか。

 名門大学のビジネススクールで学ぶエリート学生達が京都の禅寺までわざわざ赴くのは、イノベーションに結びつく直感力の育成だと考えられる。理論はパソコンを通じ習得することが出来る範疇にあるが、座禅や直感には体験が不可欠である。

 ジョブズ氏と親交が深かった世界第二のソフトウェアの企業であるオラクルのCEOのラリー・エリソン氏は、京都の豪邸を購入し、禅寺に赴かれるという。アップルとオラクル、世界の最先端を行く大企業が禅の影響を受けているのである。60年代70年代に東洋の文化や禅を体験した当時の若者達が今の最もクールでありシンプルな製品をクリエートしているのである。

 最近の禅のブームの本質は、日本に対する異文化交流に加え起業家として成功するために必要な直感力とシンプリシティーにあるのではないだろうか。そこには尊敬が存在しているから太平洋を越え将来を担う米国の若者が京都に来るのだろう。

 日本のソフトパワーには、アニメや漫画、J-popなどがある。海外でこれらの影響力の凄さに圧倒されもしたが、現に円高やコストの面、そして比較的簡単に模倣がなされることなどを考えると限界を感じる。

 一方、ソフトパワーの本質をついた禅は、一朝一夕には生まれぬ日本の禅寺の自然と歴史が織り成す空間の上に成立しており、ここには、お金を使わず世界に影響を与えるパワーが秘められている。

 日本で多くの国際会議が開催されている。想像するに多くの国際会議は、いずれの国で開催しても同じような会議であるように思う。むしろその土地でしか開催できない国際会議の方がインパクトがある国際会議になるのだろう。

 スイスで毎年1月に開催されるダボス会議のような国際会議を京都で開催してはどうだろう。それも禅ではじまり禅で終わるというような直感とシンプリシティーに力点をおいたお金を使わない国際会議の開催を。禅こそグローバルで普遍性に富んでいるからこそ実現可能で夢想で終わらぬ予感がする。