6月 02

 書店に並ぶ「もし高校野球の女子マネージャーが、ドラッカーのマネジメントを読んだら」という「もしドラ」の本を見て、直ちに大学の講義で、ドラッカーの実務的な経営戦略をベースに、就職難から国難まで様々な難題に打ち勝つためのディスカッションを行った。イメージ図

 500人の学生が履修する講義では、学生の集中力を維持させるのは、容易でない。しかし、「もしドラ」を学生が直面する就活という現実に置き換えて学生が主役となる講義を行ったところ、想像以上のインパクトがあった。つまり、教育で重要なことは、世界に通用する恒久的な法則を習得し、豊かな人生をおくるために必要となるビジョンやシナリオを学生自身が考える点にあるのではないだろうか。

 改めて学生の立場で現在の日本経済の状況における就活を考えてみると厳しさが実感できる。戦後の日本の経済発展の変遷を経済復興期(1945-1954)、高度経済成長期(1955-1976)、経済安定期(1977-89)、構造改革期(1990-現在)の4つに分類すると、復興期においては、米国の対日経済支援や朝鮮戦争特需の恩恵を受け、経済成長期においては、重化学工業や輸出主導型産業の進展が所得倍増計画の実現に貢献し、経済安定期においては、二度の石油ショックや米国経済の危機に伴う変動相場制への移行やプラザ合意による極端な円高の洗礼を受け、国際分業による工場の海外移転が加速された。そして、構造改革期においては、産業の空洞化が加速され、それを予防する政策として莫大な国債が発行され内需景気刺激策としての無駄な公共事業が行われ、GDPの2年分以上の借金を抱えてしまったのである。

 昭和から平成に変わり20年以上日本の経済発展が劣化が継続している。追い討ちをかけるように3・11の自然災害と原発事故のダブルの悲劇に呪われたのである。戦後最悪の状態であり、学生にとって夢と理想が吹っ飛ぶ程に現実は冷たいのである。

 そこで、ドラッカーのマネージメント戦略の登場である。会社の目的は、顧客を創造すること。顧客が必要なのは、生産性の向上をともなったマーケティングとイノベーション。事業の姿を具体的に考えるために、マーケティング、イノベーション、経営資源、生産性、社会的責任、費用としての6つの視点で考える。

 日本の社会的ベクトルは、少子高齢化社会において、「幸せと豊かさを実感できる社会システムの構築」にあり、経済の成長ベクトルは、地球環境問題、ITの進展、グローバル化の進展、ライフサイエンス、農業の分野にある。従って、日本経済の停滞をブレークスルーするのは、これらの分野をドラッカー的にマネージメントするかにある。学生は、これらの前提条件を基本に学生の柔軟な発想で、企業のリクルートする側を驚かす刷新な青写真を描くことで、就職難の世の中に一抹の光を見出すことが可能となると考える。

 その参考になるのが、先日、参議院の公聴会で、脱原発とメガソーラーをはじめとする自然エネルギーの実用的で商機のある大胆な提案を行ったソフトバンクの孫社長である。ドラッカーの経営戦略と孫社長のビジョンが見事に重なる。既得権益や前例など悪しき慣習をぶち破り、大胆な発想が受け入れられる面白い現代社会が到来しており、学生にもチャンスがあるのではなかろうか。

<参考文献>
・もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら 岩崎夏海 (ダイヤモンド社刊)
・マネジメント[エッセンシャル版]  P・F. ドラッカー、 上田 惇生 (ダイヤモンド社刊)