3月 31

経済は心理的に作用する生き物である。そこにグローバルとつけば、世界経済の変動は加速される。宗教学者の山折哲雄氏は、景気循環を仏教用語で解釈すれば、諸行無常だと述べておられる。

現代の世相はまさに変動であり循環でもある。最大級の経済危機に喘いでいる中、一方では、日本人がノーベル賞、オスカー賞を受賞し、侍ジャパンの野球が世界の頂点に立った。日本の歴史上、これ程、危機と快挙の両極端を経験したことがあろうか。

世の中が暗いニュースで包まれている時の日本人の快挙は、健全なナショナリズムを喚起させるものである。ナショナリズムが偏狭に傾けば紛争につながる。また、ナショナリズムを杓子定規に語れば角が立つ。そこで、ナショナリズム、即ち国家の優位性や特異性をユーモアを交え語るに限る。

 その国民性を端的に表しているユーモアあふれるスピーチをいくつか挙げてみたい。ユーモアこそ、国民性や異文化の本質を突いていると思われる。

ウィーンやワシントンの国際会議を通じ、各国のスピーカーにそれぞれ特徴があることに気がついた。これは例えばの話であるけれど、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、北朝鮮、韓国、中国、日本のスピーカーが、それぞれ30分間の割り当てられた時間があるにもかかわらず15分遅れてきた。その緊急 事態においてどのようなリアクションを行うかによってそれぞれの国民性の特徴を観察できる。

 アメリカ人は、講演に慣れているので、時間の遅れを感じさせないぐらい講演内容を論理的に凝縮し内容のあるスピーチを行い、聴衆に質疑応答の機会を提供した。

 イギリス人は、あらかじめ用意してきたスピーチを縮めることなしに原稿なしに語ったが、途中で時間が来たので紳士的にスピーチを止め、端的な結論で締めくくった。

 ドイツ人は、遅れてきた時間をスピードで取り戻すべく2倍の速度の早口で語った。あまりの早口に圧倒され聴衆には内容が伝わらなかったが、ドイツ人はすべてを語ることに満足していた。

 フランス人は、文化の香りあふれる上品なスピーチを行ったが、議長が制限時間を越えていると伝えても次のスピーカーを無視して時間オーバーにも拘らず話し続けた。

 イタリア人は、遅れてくることに慣れているらしく、通常なら伝えるべきジョークを省き、時間内でうまくスピーチを行った。聴衆は、むしろ割り当てられた30分のイタリア人のスピーチよりも、15分に短縮されたイタリア人のスピーチの内容を理解することができた。

 北朝鮮のスピーカーは、決まったスピーチしか話すことをできないことを聴衆が知っていた。時間がオーバーしてもあきらめてそのスピーチを聞くしかなかった。その次に講演した韓国人は、パッションに満ちた北朝鮮と同じ時間のスピーチを行った。

 中国人は、時間がなくても主催者や出席者への謝意を述べ、大局や歴史のリズムを語り、各論が欠如することが多いので、聴衆は煙に巻かれてしまった。

 さて、日本人のスピーチだが、そもそも日本人は時間に厳粛だから国際会議の講演の時間に遅れてくるはずはない。仮に遅れてきても几帳面な日本人は原稿を用意しているのでそれを聴衆に配布することで、日本人の英語のスピーチを聞くより内容が伝わるらしい。

 各国のナショナリズムを批判できないが、各国の特徴をユーモアを介し語るのは、国境を越えた潤滑油の役割を果たす。経済用語の景気循環を諸行無常と表現できるように、それぞれの国民性による異なる見方が、世界をうまく循環させ柔軟性を生み出すようにも考えられる。

3月 19
 
 古くから対話によって時代を切り開く道が語られてきた。現在、百年に一度の経済危機に瀕していると世の中を騒がせているが、さて、歴史は未来を映す鏡であると言われる如く、120年前に出版された中江兆民の三酔人経綸問答を題材に現代の世相を眺望してみたく考える。
 
 兆民の名著、三酔人経綸問答では、19世紀末期、西洋の列強がアジアに迫り来る時代を背景に、ブランデーの酔いに任せ、夜を徹し大陸進出と富国強兵を唱える豪傑君と、非武装で、経済交流や文化交流を通じ日本の理想を語る洋行帰りの紳士君、そして南海先生の3人が日本の針路を語るのである。
 
 現在風に表現すれば、豪傑君はハードパワー(Hard)、洋行帰りの紳士君は、ソフトパワー(Soft)、そして南海先生はスマートパワー(Smart)の推進者である。
 
Smart 「百年前の豪傑君と洋行帰りの紳士君の白熱した議論は平行線を辿ったが歴史を振り返り反省すべき点はあるのか。率直な意見を求める。」
 
 Hard 「予測したとおり、我が国は軍備を増強し、列強のアジア進出を回避するために大陸に進出し、五族協和を理念に大東亜共栄圏を構築しようとしたことは国益に適っている。しかし、連合国を相手に戦い、原爆を投下され惨めな敗戦に追い込まれることは大きな誤算であった。」< /DIV>
 
 Soft 「現在の日本は、私が予測したように戦争放棄、文化交流・経済交流を推進する理想の国家になっているではないか。やはり、軍事に頼り大陸に進出すべきでなかった。」
 
 Smart 「立体的に歴史を考察すると、国家単位の戦略の背後に民族的な思惑があったのではなかろうか。例えば、日本は戦争を回避するチャンスはあったかもしれない。そのチャンスとは、日露戦後、ユダヤ系資本で動いたハリマンの鉄道王と満州の共同開発を推進することであった。その議論は米国の外交誌のForeign Affairsに委ねることにする。時間がないので現在の世相に移る。オバマ大統領の登場で世界がチェンジする兆しがあるが、特にグリーンニューディール政策を如何に解読するか。」
 
Soft 「30年代初頭の世界大恐慌を救った奇策は、ルーズベルト大統領が提唱したニューディール政策による有効需要の創出である。オバマ大統領は、地球環境問題を考慮した太陽光などのイノベーションを通じた現在のニューディール政策を推進している。現代の叡智が結集された政策であり、経済発展が期待できる。」
 
Hard 「性善説を唱えるSoftは、歴史を知らぬ。ルーズベルトは、ニューディール政策で負債が膨らむことを織り込み済みだったのだ。経済危機から抜け出す究極の雇用創出は、戦争だ。アメリカの軍事費を考察すれば当然の如く、アメリカは武器商として、武器を他国に押し付け、軍事顧問を送り込んでくるのだ。だから、我が国は、米国依存を脱却し 、自らの安全保障政策が必要なのだ。」
 
Smart 「クリントン国務長官が、軍事力に加え外交を中心とした賢明なパワーとしてスマートパワーを提唱しているが、日本人には理解できるがアメリカではなかなか理解しづらいことがある。それは、経済・外交・安全保障のすべてにおいて、万物は流転し、諸行無常であるという日本的な見方である。未来は突然に来るものであ る。だからこそ、地球のリズムに適った多元的な日本の考えを世界に発することが大切である。換言すれば、日本の役割は、アジア・太平洋の時代の到来において、アメリカの欠点を補い、日本の得意とする政策を実行することだろう。そのヒントとして、ハリウッドのようにお金をかけなくともオスカー賞を受賞した映画「おくり びと」にあるだろう。
 
 月刊「世相」2009年4月号に掲載

3月 19
国会の演説を聴いていると日米の温度差を感ぜずにいられない。首相や大臣が漢字の読み方を間違ったとことをメディアは、あたかも重大ニュースのように伝えている。日本のメディアは国家の文化水準の低さを内外に伝えるのでなく、もっと国益に適った本質的な内容を伝達すべきである。では、どうして竹村会でも素晴ら しい講演をなされる麻生首相ほど雄弁な人物が、国会では国民を奮い立たせるどころか、批判の対象となるのであろうか。
 
 明らかに日本とアメリカの国会議員の違いは、演説するときに原稿を棒読みにするかどうかである。換言すると、官僚が作成した文章を政治家が読まされているという所に問題があるのであろう。同じ内容でも、原稿に左右されず議員自らの言葉で語りかければ、国民にパッションが伝わり世の中が明るくなる。オバマ大統 領やクリントン国務長官のスピーチが、そうであるようにアメリカ人を酔わせる言葉のパワーを過小評価してはいけない。
 
 ワシントンで頻繁に上院下院の公聴会を傍聴した。当時、上院の外交委員会では、バイデン上院議員やルーガー上院議員が議長役として、外交の旬のトピックを実に分かりやすく説明し、また専門家や参考人とのやりとりが絶妙であった。例えば、ルーガー議長やバイデン議長のアドリブは、今朝のニューヨークタイムズや ワシントンポストのコラムニストが、こんなユニークなことを述べているとか、上院議員が自ら海外視察で見聞したことなどメディアに発表されないようなことを語り、ライブ性とユーモアを兼ね備え、聴衆をひきつけるパターンが多かった。
 
 上院の外交委員会の公聴会では、上院議員が多くの人々が疑問を抱いていることを外交や安全保障の専門家に分かりやすく問いかけ、明快な答えを引き出す所に醍醐味を感じた。同時に、常に建設的に問題を解決しようとする空気が漂っていたので、公聴会に出席することで確実に何かを学ぶことができた。
 
 公聴会は、上院議員が学ぶ場であり、また聴衆はメディアから得られない新鮮な本質的な主張や政策を得ることができる。上院議員は、多くの政策スタッフを抱えており、情報が豊富であり、官僚に支配されなく独自で高度なインパクトのある主張を行うことができるのであろう。上院外交委員会の末席に席を置いていた当 時のオバマ上院議員は、今から思えば、外交経験の不足を補うためにバイデン議長から帝王学のような指導を受けていたように思われる。
 
 クリントン国務長官が、上院の外交委員会で、経済・外交・軍事・政治・法律・文化の包括的な要素をミックスさせ、二国間外交のみならず多国間外交に基軸をおく賢明なスマートパワーの重要性を主張した。筆者が研究員として勤務したブルッキングス研究所の上司のスタインバーグ氏が、国務省の副長官に任命され、ま た、戦略国際問題研究所のキャンベル氏が、国務省の東アジア・太平洋担当の次官補に任命された。ワシントンのリベラル系のシンクタンクの経験を通じ、クリントン・スタインバーグ・キャンベルの外交政策、とりわけ日米同盟、アジア外交、国連外交や多国間外交をワシントンの視線で眺望することができる。
 
太平洋を挟み、日本が得意とする文化的・経済的なパワーを中心においたソフトパワーと、米国が推進する軍事力のハードパワーと直接交渉や多国間外交をミックスさせたスマートパワーがタイムリーに発揮されることにより、世界のパワーセンターは、アジア太平洋にシフトされるだろう。従って、今こそ日本の積極的・建 設的で賢明なビジョンを自らの言葉で語る時であろう。
 月刊「世相」2009年3月号掲載

3月 19
 80年代初頭、米国では、日本式経営が注目され日本式経営と米国式経営を融合させたセオリーZなる経営が研究された。しかし、30年前と比較し現在では、日本企業が米国企業のマイナス面を真似ているようだ。
 
 アメリカ発の金融危機が暴露したアメリカ企業の負の側面は、好景気には暴利を得たにもかかわらず、危機には公的支援に依存したりゴールデンパラシュートとして利益を得たまま逃避するところにある。これに反し、かつての日本企業の美徳は、終身雇用など市場経済至上主義と異質の倫理観であった。しかし、百年に一 度の経済危機は、日本人の心の関数をも変貌させようとしている。
 
 これらの危機に挑戦するために日本で日本式経営を実践しているアメリカ人の経営哲学が参考になる。30年前にアメリカから日本に移り日本国籍も取得されたアシストの社長のビル・トッテンさんは、日本の名門企業が非正規社員を解雇するという理不尽な昨今の動向を切実に批判されている。トッテンさんは、「アシス トの800人の社員に決してリストラはない。不景気の時には、特に管理職にペナルティーを科し、社員全員の給与を減少させ、危機を分散させればよい。非常時に備え、衣料の修繕ができるようにミシンを提供したり、食料を自給できるように農業の実習も行う。会社は社員の生活を守る責任がある」と語っておられる。
 
 一昔前の日本企業ならいち早くこのような経営哲学が発せられたが、今はグローバリゼーションの狭間の中で、多国籍企業化された日本企業から明確な経営哲学が聞こえてこない。ならば、就職難に苦しむ学生も含め社会問題として、世界の中の日本を考え、どのような仕事が地球のために役立ち、またそれぞれが満足でき る仕事に従事する可能性が生み出されるかを熟考しなければいけない。中長期的にフォーカスされるビジネスとして、農業、地球環境問題のテクノロジー、世界語としての英語の3つが挙げられる。これらを相互補完的に結びつけた仕事をパイオニア的なビジネスと考えられる。
 
 
 自然を謳歌する農業とモバイルの融合
 
 日本の食糧自給率は40%と極端に低い。世界と比較すればこ、危機的状況である。これを是正するにあたり、第一次産業である農業の改善が急務である。
 
 最新の情報を入手するためには、事務職であるホワイトカラーが優位であったが、昨今のテクノロジーの革新で、どこでもいつでも世界の最新情報に接続することが出来る。特に、最近では、I-Phoneの機能にあるYouTubeを通じ、事務所に居なくても、移動中でも、また山や海で自然に浸り、夜空の満天の星を仰ぎながらも世界にコネクトできるし、また机上に居なくても勉強や研究に没頭することが可能である。
 
 オバマ大統領は、地球環境問題に適合するテクノロジーを発展させることが、アメリカの自動車産業などの復活にとって必要不可欠であり、経済発展の機軸になると考えている。アメリカが求める環境にやさしいテクノロジーは、日本が世界をリードしている。
 
従って、農業、地球環境問題に関連するテクノロジーの分野に焦点を合わせるとビジネスの可能性が広がると考えられる。世界が注目する日本の有機農法や環境技術を世界に伝えるためには、世界語としての英語力の向上が不可欠である。農業に従事しながらもモバイルを通じ、英語力を磨くことが可能である。このように考 察すると、大自然の下でスマートな農業に従事しながら、幾つかの仕事を兼業できるパイオニア的なビジネスは、存在すると考えられる。日本企業が誇ってきた終身雇用が崩れた今、仕事は自ら創造するものであるという経営哲学も重要となろう。
 月刊「世相」2009年2月号掲載

3月 19
オバマ新政権の経済・外交・安全保障の重要ポストが発表された。イラク戦争の鎮静化に貢献したゲーツ国防長官が再任されたのはともかく、経済・外交に関しては、ブルッキングス研究所の息がかかっているように考えられる。
 
 ヒラリー国務長官の補佐役として、ブルッキングス研究所の外交政策部の筆者の上司であったジェームス・スタインバーグ氏が就任した。
 
ハミルトンプロジェクト
 
 2年半前にブルッキングス研究所で発表された「ハミルトンプロジェクト」のメンバーがオバマ政権の経済チームの主軸となっている。メンバーであるオバマ氏は、ブルッキングス研究所で基調講演を行った。
 
 このプロジェクトは、ブルッキングス研究所のピーター・オーザック氏とロバート・ルービン元財務長官が中心となり、ハーバード大学やプリンストン大学を主席で卒業した実務者を始め産官学の約30人の叡智を結集し、実践向きに設計されたものである。 

 

 プロジェクト名は、米国の初代財務長官のアレクサンダー・ハミルトンに由来している。西インド諸島で育ったハミルトンは独学で貧困を克服しワシントン大統領の右腕として米国の財政政策、金融システム、商業主義の基礎を築き、10ドル紙幣にも載っている。ハミルトンは、伝統的な米国の価値観を代弁する人物であり、ブルッキングス研究所が21世紀の今日、米国の経済政策の原点に戻り経済成長戦略を策定するにあたり、ハミルトンを礎にしたところに不思議と新鮮味を感じる。

 米国の価値観は、教育と勤勉を通じ豊かな人生の機会を提供してくれるところにある。しかし、今日、価値観を見出す投資がなされているのであろうか。今、求められているのは、長期的な繁栄と成長に向けた明確な経済政策であり、空論や政策上の主義を述べるのでなく成功の証となる実践や経験の新機軸となる理想 の経済成長戦略である。

 経済成長戦略としてハミルトンプロジェクトの3つの基本原則は、
 大多数の国民が経済成長の恩恵を受けることができる経済政策、経済保障と経済成長の両立、効率的な政府は経済成長を促進させることにある。


  ハミルトンプロジェクトの4つの機軸 

 教育分野への投資と仕事の機会の提供
 米国経済の成長は、人的資源に依存している。政府の試算によると、米国の民間の建物等の資産は13兆ドルであるが、人的資源は48兆ドルとなる。幅広い層へ教育の機会が提供されることにより競争力のある分野への潜在的な労働力を生み出す。

 イノベーションとインフラ整備
科学技術の発展を目指すインフラ整備は、経済発展の機軸である。世界のトップ50の科学技術研究機関の内38が米国の研究機関が占めている。しかし、米国の科学技術の影響力が低下傾向にある。4年以内に、中国人のエンジニアの博士の人数が米国を追い抜くと予測されている。科学技術の分野への本格的な投資・社会資本整備が必要である。

 貯蓄と社会保険
 
 効率的な政府
 民間経済と効率的な政府の相互補完的な統合的な協調が経済成長を維持させる。

 
 2年半前にブルッキングス研究所が次期政権の経済政策を描いた時には、米国発の世界恐慌は発生してなかった。世界を揺るがす大量破壊兵器はバグダッドでなく、ニューヨークを震源地とするサブプライムローンであったと語られる今、中産階級の興隆を礎とする経済政策が米国のみならず世界にどのような影響を与 えるのであろうか。ブルッキングス研究所をはじめとするワシントンのシンクタンクの動向を解読することで、メディアよりも鋭い分析と構想を練ることが可能となろう。
月刊「世相」2009年1月号に掲載
3月 19
ルイヴィトンの新作のバックが京都の上賀茂神社の空間を背景に紹介されているのを某雑誌で見た。パリのファッションの旋律が京の神社の自然の静寂に浸みわたるこの企画を行ったのは、フランス人が日本人が知らないが、粋な演出である。
 
先日、同じく京都の下鴨神社で、「にっぽんと遊ぼう」という京の粋を楽しむ催しが行われた。神社の自然の緑に包まれた暗闇の空間にかなでられるピアノの調べは、悠久の時を超えて古のロマンが、華やかにそして厳かに奏でられた。内外のセレブ400人が京の味とともに極上のシャンペンを楽しむ空間が京都の神社 にマッチしていた。
 
西洋と東洋の文化の頂点を織りなすパリと京都。東西の文化を抱擁し、シンクロナイズさせるパワーが京の神社には宿っていると感ぜずにいられない。
 
また、京都に何十年も住む外国人が臨済宗の総本山である京都の妙心寺にて、秋の夜長の京都を満喫する催しを企画した。日本の伝統を研究し精通している外国人が選んだ催しは、紙芝居と尺八。禅の枯山水の庭に響く繊細で激しい尺八の音色は、あまりにも美しかった。
 
京都の神社とお寺で奏でられるピアノと尺八は、パリやウィーンのオペラやコンサートに匹敵するだけの文化度を秘めていると考えられる。古より脈々と流れる京都の神社仏閣のありのままの空間を応用させることにより、西洋と東洋をシンクロナイズさせることが可能となろう。西洋もどきの箱ものに莫大な出費をしな くても、歴史と文化と自然の空間を織りなすことにより、世界を驚かすに値する日本のソフトパワーを発揮することができる。
 
 西洋は東洋に憧れ、東洋は西洋に憧れるものである。そこに交流や調和が生まれる。また、異なった要素は、時には政治や経済の争いが転じ戦争へと導く。現在の世相を観察すると、核戦争の恐怖心から人類滅亡を回避する戦争への抑止力が機能し、むしろ世界の万民が共有できる地球環境問題など地球益の大切さが観 えてくる。
 
 地球を観ることが大切である。夜空を仰げば月や星は照り輝いているが、地球のあるべき姿を自然の空間で展望することは、宇宙船で観る他はない。しかし、京都造形芸術大学の竹村真一先生が開発された「触れる地球」なら、実際の地球の1千万分の1というサイズで、生きた地球の姿をリアルタイムで体感できるのである。
 
 我々の遠い遠い先祖であるDNAは、きっと宇宙という空間を彷徨いながら地球という宇宙に浮かぶ1個の球(グローブ)を認識したに違いない。人類はロケットが発明されるまで地球を観ることができなかった。しかし、現代の科学は、人類が宇宙船で宇宙を旅し、宇宙を遊泳することを可能にした。
 
 宇宙からリアルタイムで送られてくる映像を「触れる地球」を通じて、真っ暗な静寂に包まれた京都の神社や禅宗のお寺の空間で味わってみるのも粋である。京都には西洋の文化を抱擁し、西洋の人々を酔わせる風情と空間がある。その神社やお寺の空間を応用し、東西の文化を調和させるのみならず、宇宙遊泳を想像 しながら地球のダイナミズムを地球人として体感することは、実に神秘的であり、科学的である。
 
 21世紀の今日まで人類が気がつかなかった地球への平和がそこから生みだされるように思う。全国竹村会でも講演された天下一品の木村勉社長が、上賀茂神社の空間で「触れる地球」を披露される日を楽しみにしている。まさにこれは、「地球を楽しむ」京都の粋な催しとなろう。
 月刊「世相」2008年12月号掲載

3月 19
 麻生首相は、西アフリカのシエラレオネにて2年間、ダイヤモンドや金の資源開発のために生活されたらしい。欧米で学ぶリーダーが多い中、麻生首相が、発展途上国、しかもアフリカの奥地で人間の原点に直覚するような体験をされたことは、国益に適う素晴らしいことであり、今までの日本のリーダーにない大局観と創造 性に満ちた指導力が期待できる。アフリカは未開の地であるからこそ学ぶことがないというのではなく、反対に多くのことを習得することができたというのが、筆者の2年間の西アフリカでの実感でもある。
 
先日、これぞアフリカの未来に理想と現実をつなぐ面白いコラム(日経新聞)に出会った。エナジーキオスクと題するそのコラムには、国連工業開発機関が推進するアフリカの奥地のプロジェクトの成功例が描かれていた。
 
「都市からも拠点村落からも外れた集落。電気、ガス、上下水道などのインフラはもちろんない。でも、集落の人々はちゃんと携帯電話やパソコンを持っている。村はずれにある赤い屋根の掘立小屋。人々はそこに通って電気を買っているのである。周りに水の流れがあればそれを利用する。風の吹く場所には風車を。ある いは、屋根に太陽光パネルをおく。そのいずれもが利用できない場合でもバイオマスを使う発電機や地域の植物油から作るディーゼルからも電気を作る。そこに接続して携帯電話なら一回20円でできる。ひと呼んでエナジーキオスク。完全地産地消型の施設である。」
 
 ぼくは20年前に国連工業開発機関の準専門家として、西アフリカのリベリアの当り前のインフラ整備がない奥地で、2年間、中小企業育成のプロジェクトに従事した。当時は、エナジーキオスクのような産地消型の施設はなかった。ただ当時の知識では、電機や水道のインフラを整備するためには、巨額の ODAが必要だと考えられていた。
 
 その巨額の資金を得るために冷戦末期のアフリカ諸国では、先進国から技術支援や資金協力を得るために政治が混乱し、大規模のインフラ整備のために住民は過剰な労働を強いられ、加えて環境破壊へつながった。
 
 その意味からもローカルの素材でそこで生活する住民がローカルな技術力でエネルギーを自家発電できるシステムは、画期的だと考えられる。エナジーキオスクとサテライトのテクノロジーで、最も安く効率的にアフリカの奥地と世界が結びつくのである。
 
 アフリカの発展にとっては、先進国の物差しで展望するのではなく、アフリカの将来を担う子供たちの目線で下座鳥瞰すべきだと思う。当時リベリアで国連の中小企業の育成のプロジェクトで、大型のインフラ整備の対極的な、村の人々に小規模の資金を提供し、家具製造、鍛冶屋、養鶏、養豚などのアフリカの奥地の産 業を推進した。数年前にマイクロファイナンスのプロジェクトを具現化したバングラディッシュ人がノーベル平和賞を受賞した。
 
 アフリカのみならず20年以上かけて世界を翔けて日本に戻ってきて、とりわけ農林水産業やエネルギーの地産地消の大切さを実感している。案外、日本の地域格差を解消する秘策としてアフリカの知恵が役に立つのではないだろうか。後進だから旬の技術力が生かされるということもあろう。少なくとも麻生首相には、 秋葉原と同じようにアフリカの知恵も生かせて頂きたく思う。
月刊「世相」2008年11月号掲載

3月 19
海外で長く生活し、しかも五大陸でバランス良く生活した効用は、地球上のニュースが現場のローカルな視座で眺望できることである。例えば、黒海のグルジアを舞台にロシアと米国の軍事介入が世界を揺るがしている。まるで冷戦時代を彷彿させる東西の勢力均衡の再来である。
 
 とはいうものの、もしグルジアのサーカシビリ大統領を全く知らなかったら、日本から遥か彼方のグルジアの問題などそれほど関心がない。しかし、大統領は筆者が客員研究員として1年過ごしたジョージワシントン大学で学び、身近で大統領の講演を拝聴したので、グルジアのローカルな視座でグルジアを取り巻く国際情勢に敏感になる。
 
 いつの世も、紛争は、リーダーの世相の読み違えで発生するものである。特に敵対するリーダーの相性が、戦争か平和を導く。歴史を逆行するグルジアの不確実要因に対し、英国の宰相、チャーチルの哲学が注視されている。ドイツのヒトラーの拡張主義に妥協し宥和政策を行った英国の外交政策を真っ向から批判したのがヒトラーに強硬姿勢を示したのがチャーチルであった。第二次世界大戦直前の異常事態においては、チャーチルの主張は妥当であり、強硬姿勢を貫くことが戦争を最小限に回避する近道であったと歴史は評価している。
今日のグルジアの緊張においてもチャーチルの哲学を糧とすべきであるとの論調もある。しかし、軍事的緊張が戦争へと導くとも考えられる。とにかく紛争が発生する前に紛争の根源を抑える予防外交が期待される。
 
 21世紀の今日、グルジアやポーランドのミサイル防衛の問題に見られるようにNATOを中心とする勢力とロシアとの勢力の均衡が顕著になりつつある。日本は、如何なる外交戦略を描かなければいけないのか。
 
ブレジンスキー元大統領補佐官は、北米、EU,中国を中心とする東アジア共同体の三極構造において、日本とロシアは振り子のように揺れ動くスイングステーツだと表現している。ロシアの振り子は、覇権の方に動いている。日本の振り子は、日米同盟を基軸とする動きを示すも米中の予測できぬ関係において、日本のアジ ア観が不透明である。このような状況の中で、ブレジンスキー氏は、日本とNATOの関係強化が重要だと述べている。
 
キッシンジャー元国務長官は、新しい米国大統領の最も重要な仕事は、米国が東アジア共同体と如何なる関係を推進するかにあると述べている。ワシントンのシンクタンクで、米国は冷戦に勝利したが、その立役者は誰であったかというシンポジウムが開催された。ソビエトとの軍拡で勝利したレーガン大統領とブッシュ大統 領、ペレストロイカを推奨したゴルバチョフ大統領、70年代前半に米中関係を推進したキッシンジャーと周恩来。これら三人の主役の中で、ソビエトを孤立化させる実利的な戦略を実行したキッシンジャーと周恩来が冷戦構造の終焉の立役者だとの主張が主流を占めた。
 
ソビエトを孤立させるために米中の関係を推進した戦略が正しかったのである。グルジア問題を予防外交の視点から考察すると、日本はNATOとの協力並びに中国やインドとの協力を強化することが肝要であろう。
月刊「世相」2008年10月号に掲載
3月 19
 母国語をまともに勉強してないのに小学校から英語を学ぶ必要がないとの論議がある。英語を話さなくても生活できる日本にとっては、この主張も一理ある。しかし、グローバル社会に適応できる日本人が世界の水準と比較して極端に少ない場合、日本の国益にとってマイナス面が顕著になってくることを懸念する。</ SPAN>
 
 ウィーンで生活した時に、低賃金で過酷な労働を強いられる東欧やトルコ出身の移民を目にした。とりわけ、ベルリンの壁が崩壊したときのヨーロッパでは、正規の賃金よりはるかに安く働く賃金の二重構造が存在していた。移民や不法労働者がヨーロッパ社会の底辺の仕事を支える構図になっていた。
 
 一方、日本の場合、移民の受け入れに厳しく、少子化の影響で勤労者が高齢者を支える割合が高まっている。そこで、近い将来、外資系企業が日本市場に進出してきた時、日本のフリーターという呼ばれる若者たちがヨーロッパにおける移民のように、外資系企業によって低賃金労働を強制されると予測される。
 
 日本では移民の受け入れに寛容でない故に、学力や技術力に欠ける若者たちが外資に奴隷のように使われ、加えて若者たちは年金に頼る高齢者の生活を守らなければいけないのである。このような悲観的な状況を回避する戦略を考慮しなければいけない。
 
 グローバリゼーションの潮流の中で、日本への直接投資が進展するのは健全なことであると考えるなら、外資が入ってきた時に、日本の国益にとって良い影響を及ぼすための交渉ができる人材を育成することが急務である。このような人材とは、国益と地球益の両方を追求できるグローバルエリートである。
 
 フランスの某大学の学長は、90年代までは国益のためのナショナルエリートの育成に重点を置いてきたが、21世紀からは、文系、理系の隔たりなく地球が抱える問題、例えば地球環境問題、食糧問題、エネルギー問題等を学術・理論的に分析し、明確な解決策を提示することができるグローバルエリートの育成にシフト していると語っていた。
 
 日本の教育は未だにナショナルエリート育成であり、しかも受験に強い机上の学問中心の教育である。このような従来の日本の学校と全く異なるグローバルエリートを育成するための学校がニュージーランドのオークランドや広島にある。それは竹村健一先生が理事長をされているAICAcademy for International Community)という中高一貫の学校である。
この学校は、国語を除く授業を英語で行い、インド数学に重点を置き、世界的視野に立脚し、東大、京大、早慶などを目指すのでなく、世界のトップ50の大学、例えばオックスフォード大学、ケンブリッジ大学、ロンドン大学、プリンストン大学等を目指す学校である。3年連続で、卒業生の大多数が世界のトップ50の大 学に入学し、しかも飛び級で奨学金を受け合格した優秀な生徒を輩出したのである。さらに英語力が幸いし、日本の大学にも合格することができるのである。
 
 将に青年よ日本の大学の殻を破り、世界のトップの大学を目指せ、である。このような野心を持った若者が、外資が入ってきた時に、日本を守り、また国益のみならず地球益のために貢献するグローバルエリートとなるのであろう。
 月刊「世相」2008年9月号に掲載

3月 19
 石油価格は、1バーレル140ドルを超えた。この急激な高騰は、中国・インド等の石油需要増しと産油国の供給調整に起因しているが、少なくとも50ドルは、投機マネーによる心理的要因が働いていると言われている。
 
 とすれば心理的要因を利用し、投機マネーの流れを変えるエネルギー戦略を考案すれば面白い。例えば、天然資源に恵まれなくても世界第二の経済大国になった日本が、独自のエネルギー資源を確保する可能性を示すことにより、投機マネーで変動する石油価格の流れを変えることが出来る。日本のエネルギー戦略を奇想天 外な発想を持って大きく舵取りする必要があろう。
 
燃える氷
 日本の周辺に燃える氷と言われるメタンハイドレード(MH)が塊状の状態で広く水深500メールの辺りで眠っているらしい。これは天然ガスに等しい環境に優しいエネルギーであり、LNGに比較し費用効率が高く、埋蔵量も百年を超える。
 
 もしこれが真実ならば、資源国家としての日本の未来が切り開かれるのである。天然資源に依存しなくても技術革新で成長を成し遂げてきた日本が、仮に自給できる天然資源に恵まれたなら、世界から想像以上の注目を浴びると考えられる。
 
 現在の異常な石油価格の高騰は、需給の不均衡懸念が70−100ドル、残る50ドルは機関投資家等による投機的要素が絡んでいると推測されている。投機的な思惑を予防する策として、既存の天然資源に代替する可能性のある燃える氷等の海底に眠っている天然資源の開発が推進することが考えられる。
 
原発
 G8サミットで、二酸化炭素排出とエネルギー価格高騰の要因から原発の重要性が議論された。原発に関し、概して3つの考えがあると思う。第一は、原発アレルギー。とにかく原発はいけないとの単純明快な考え方。第二は、天然資源に恵まれぬ日本にとって、少々の危険が伴っても安価で安定したエネルギー供給を保つために 原発は不可欠であるとの原発推進派の視点。第三は、その中間。即ち、エネルギーを分散させるという意味で、ある程度の原発は必要不可欠であるとの見方。
 
 日本の原発の技術力は、東芝・ウェスティンハウス、日立・GE,三菱重工など世界の主流を占めている。原子力大国である日本、フランス、米国は、地下資源大国である中東、ロシア、中央アジア等との競合においてエネルギーの安全保障戦略を描く重要な位置にある。
 
  原発ブームの中で、日本はユニークな局面にある。唯一の被爆国、地震、京都議定書の地球環境先進国、原発の技術立国。被爆国による原発アレルギーと地震による事故のことを考慮すれば、原発の不安材料が増す。一方、国際情勢と安全保障の視点、並びに高度な日本の原子力技術を目算すると、原発の意義は増す。
 
 
少なくとも石油・天然ガスに代替する燃える氷の開発が進展し、原発の重要性がG8サミットで議論されることによりエネルギーの投機マネーによる石油価格の高騰に何らかの心理的影響を及ぼすことができると考えられる。地震ベルト地帯に位置する日本にとって原発には限界があるとすると、燃える氷の実用化に向けたグランドデザインが希求されている。
 月刊「世相」2008年8月号に掲載