1月 30

ここは地の果てアルジェリア、「カスバの女」のメロディが蘇ってくる。32年前にアルジェリアでないが戦争中のバクダッドに企業戦士として赴任した。20代前半の若者にとって異国の地で大型プロジェクトに従事することは大いなる憧れであった。大袈裟かもしれないが命をはって仕事をした。そして実際に戦闘にも巻き込まれた。

日本で平穏無事なサラリーマン生活に何の魅力も感じないあまのじゃくにとって生き甲斐、報酬、危険の狭間の中、国際貢献という抽象的な名目に任せ海外で生活し、自分を鍛えることこそ我がテーゼであった。日本企業の企業戦士としての海外赴任、国連の職員として途上国援助の仕事。戦争という外部要因とマラリアという内部要因との戦いでもあった。

日本から逃避しながら途上国で学んだことは、「開発協力は人類の義務である」と語った開発協力の父である久保田豊氏の名言である。戦争や紛争の一因として貧富の格差が挙げられる。地域格差とグローバルな経済、技術力の格差を縮めるためにも開発協力は重要な役割を演じている。

ダイナミックな仕事は、ハイリスク、ハイリターンである。加えて、途上国での大型プラントの仕事や開発援助の仕事は国益を超越して地球益としての崇高な目的をはらんでいる。そこに身を置く覚悟があるなら徹底的にリスクマネジメントを研究し実践することが必要である。

アルジェリアの悲報に接し、北アフリカの地の果てで崇高な仕事をされた企業戦士に尊敬の念を抱かずにはいられません。同時にリスクが高いから途上国のビジネスを回避する方向に向かってはいけないと思う。恐らく、途上国で勤務した多くの人々は、改めてリスクマネジメントについての戦略が必要であると考えておられると思います。

途上国の大型プラントがテロのターゲットとなる本質的な要因は何処に起因しているのであろうか。第一に、途上国からみれば先進国による資源の搾取と映る。第二に、中東や北アフリカの不安定な政治、経済、社会、宗教的な要因が政府軍と反政府軍やテロ組織の対立を助長させており、大型プラントが格好のターゲットとなっている。第三、テロ組織が仲間の釈放等で政府と交渉するのに海外プラントに働く外国人を捕虜にするのが手っ取り早いと考えられている。

かつては人道的な観点から人命が最優先されてきたが、人種、宗教に根ずくテロの温床を根絶するためには、一切の妥協を許さず速やかな戦闘行為を遂行することが正当であるという考えが広がっている。

要するに途上国でのプロジェクトのリスク要因はかなり高いのである。このリスクを軽減するためには、安全保障(セキュリティ)の情報や知識を拡充させることが大切である。
しかし、最高の安全保障の情報に精通しているとされるアメリカであってもリビアのアメリカ領事館がテロ組織により襲撃され大使などが殺害されたことからリスクマネジメントの限界がある。

海外の大型プロジェクトに関し、現実的に企業から見ればリスクがあっても利益も重要であるし、国家の視点からもエネルギー資源の確保は国是であり、開発協力や技術移転の観点からも建設的な関与が不可欠である。

企業、国家、国連による多国間協力、集団的安全保障などを充実させ途上国のビジネスを遂行させるシナリオを描く必要がある。情報を拡充させたり経験則を活かすことによりリスク軽減につながるだろうが、特効薬のようなクスリは、中東や北アフリカの現在の特殊状況においては「リスクのクスリ」は存在していないと思う。

ぼくは思う。開発協力は崇高な仕事であり、報酬も多いがリスクが伴う。世界は不確実性の高い地でもある。日本は安全なように思われているが世界から見れば地震ベルト地帯であり、津波も発生するし、いまだ放射能が漏れている危険な所でもある。そのように思うと、昔ほど途上国で働く元気はないが、どうせ今を生きるなら命がけで途上国の大型プロジェクトに企業戦士として働くのも悪くないと思う。そのためには、企業とか国家に頼るのでなく自分で身を守るという直感に基づくリスクマネジメントの徹底に努めたく思う。

1月 08

新しい年のスタートにあたり今、即ち2013年は、如何なる年になるのか考察したく思う。13という数字は西洋では不吉な数字である。東洋の観点では調和を重視するので、バランスを保つ意味でも13の不吉を補う吉兆のための努力も必要だろう。地政学的、歴史的、そして2013年に実行すべきことの三点から世界の潮流を展望してみたく思う。

■ 第一 地政学的観点
昨年は世界的に選挙の当たり年で内外でレジューム・チェンジが起こった。これから数年は主要国でじっくり腰を据えた長期政権が続く。ロシアと日本の共通項は、プーチン大統領と安部首相の復帰である。主要国の特徴としてリベラルな革新的な動きよりも保守的なナショナリズムの高揚と自国中心の政策が目立つように思う。

米国においては、軍事費削減が意味するのは他国への干渉よりも自国中心の「モンロー主義的傾向」にある。ロシアはユーラシアの東方を強化すると共にエネルギー政策を推進するだろう。中国は米国と並ぶ世界のリーダーとしての道を歩むと同時に急速に経済発展したことによる反動を如何に修正するかの課題がのしかかってくる。韓国の最初の女性大統領として朴大統領は、財閥中心の経済構造を市民中心の社会構造に修正し、永らく続いた北朝鮮への妥協的関与政策からどのように保守的な朝鮮民族の道義を重んじた政策に舵を切るのか。韓国と北朝鮮の共通項は、リーダーである父の姿を見て育ったことにある。親子ほど年の差がある二人の相性は儒教からみてどうなのであろうか。

ヨーロッパの財政危機の問題を主要国であるドイツ、イギリス、フランスがどのように解決するのか。少なくとも自動車産業に見られるような高度な製造業としてのドイツの世界的名声はさらに高まりヨーロッパの代表としてのドイツの座標軸は強固なものとなるだろう。また、南米においては、ブラジルなどの発展は人口、天然資源に加え、数年先のワールドカップ、オリンピックなどの国際イベントの影響とアメリカのモンロー主義の観点から南北アメリカの接近が経済発展の起爆剤となると考えられる。

アフリカの発展の機運は天然資源と政治的な安定にあり、経済成長の速度は急速に高まると考えられる。アラブ諸国はイスラエルとパレスチナの対立のみならず国内の政治・経済・社会の問題が混沌としまさにインシュアラー(神のみぞ知る)である。

■ 第二、歴史的観点
百有余年の歴史をひもといてみても、北東アジア特に、中国・北朝鮮・極東ロシアの国境が接する地域は波風の激しい地域であり、日清・日露戦争、満州事変、大東亜戦争の導火線となった。一方、前世紀初頭のこの地域はシベリア鉄道も通り、インフラ整備も進展し繁 栄していたが、これら一連の戦争や冷戦構造がこの地域の発展を遮断してきた。冷たい戦争が終わり20年有余年が経過したが、北朝鮮を中心とするこの地域は依然冷 戦構造が存続している。

90年の歴史を誇る米国の外交雑誌である「フォーリン アフェアーズ」の戦前の北東アジアに関する論文と、満鉄の経済調査局の大川周明の戦後の述懐には共通項がある。

それは、日米協力による満州の開発、特に多国籍企業を通じたインフラ整備の推進で「開かれた経済圏」を形成することができ、それが地域の信頼醸成に直結し、紛争を未然に防ぐことに役立つとの視点である。例えば、日露戦争後、米国の鉄道王であるハリマンは、世界一周の陸海の交通ネットワークを作るにあたり、日米協力による満州鉄道の整備の推進等を提案してきた。しかし、日本に不利なポースマス条約の影響もあり、日本の世論が日米協調を拒み排他的政策をとった。

当時の国際情勢の流れの中で米国との協力は至難の業であったが、仮に米国等を含む多国間協力で大東亜経済圏の開発が推進されたなら、日本の孤立化によるエネルギー問題は回避できたであろう。そして、歴史の回転舞台が違った方向に回ったかもしれない。歴史に 「もし」は存在しないが、「フォーリン アフェアーズ」の論文に書かれているように戦争回避の分岐点は確かにあった。

戦後、米国は共産主義封じ込め政策により、日本を安全保障と経済の両輪から支援した。そのきっかけを作ったのは、米国の若手国務省官僚のジョージ・ケナンの「フォーリン アフェアーズ」で発表されたX論文であった。この論文により無名の外交官が一躍、冷戦理 論の第一人者になり、世界地図に冷戦の設計図が描かれ日本はその恩恵を受けたのである。このように論文やビジョンにより世界が動くことがある。

■ 第三、2013年に実行すべきこと
内外で共通する目標は、安定と発展である。それを短期的、中期的、長期的視点で展望すると違いが顕著となる。原発や消費税の問題でも、それぞれの政党が述べていることは長期的には概ね同じでも短期的には差異が見られるだけである。従って、目先のことだけを観て対立を増強させるのでなく、市民の一人ひとりが中・長期的なビジョンを持って「世界の中の日本」をじっくり考え、行動することが大切だと考えられる。

結論として、2013年は長期政権のスタートラインにあり、国の内なる力を蓄える時であり、学生はしっかり考え勉強し、社会人は真面目に働き経済を活性化させ、高齢者は医療に頼らない健康に務め、若い世代に健全な意見を発することに尽きると思われる。