4月 10

ユーラシア大陸の東西は、地政学的に大きく変動している。ウクライナの問題で西は揺れ、東も核、ミサイル、領土問題で荒れている。この変動を大局的に展望するために、日本と目と鼻の先にある東アジアの動向を経営学の手法であるSWOT分析を通じ観察してみたく思う。

SWOT分析とは、S(強み)、W(弱み)、O(機会)、T(脅威)の4つの視点で戦略を練る経営手法である。地政学的に沸騰する東アジア情勢を展望すると日本が行動すべき戦略が見えてくる。

まずは東アジアの強み、良い側面を展望すると楽観的になる。経済的に世界第2位の中国と第3位の日本、そして第15位の韓国が経済協力、特に中国の豊富な労働力、日本と韓国の世界のトップクラスの技術力、北朝鮮、モンゴル、極東ロシアの天然資源が相互補完的に最適化されれば、世界最大の経済圏となる。

負の側面である弱みを観ると危険な様相に溢れている。日清戦争から大東亜戦争までの弱肉強食の軍事的な変遷と戦後の米国による共産主義封じ込め政策の恩恵を受け奇跡的な経済成長を成し遂げた日本への批判が東アジアの歴史認識を複雑化させている。

あまりにも急速に経済成長した中国の環境問題は深刻である。数字で表現される環境問題の悪化をはるかに超える都市部の空気汚染や河川の枯渇は、食料や生活空間といった人間が生きる基本的な要因を揺るがすものであり中国の拡張主義と直結する。

東アジアの強みと弱みを把握した上で如何なる機会を戦略的に構築できるのであろうか。PEST(政治・経済・社会・技術)の観点から熟成されつつある好機を創造できる。東アジア諸国に共通するのは長期政権と強いリーダーシップであり政治的に安定していることにある。中国の経済成長が鈍化しているゆえに周辺諸国との経済協力が不可欠であり、東アジア経済圏構築の可能性が高まっている。
政治・経済の面では競合関係にあっても文化やエンターテイメントの分野においては社会を変えるアジアの共通認識の高揚が新しいパワーを生み出している。領土問題や歴史認識の相違から東アジアが分断されているような報道もあるが、現実的には、紛争が発生するには余りにもリスクが大きすぎてむしろ東アジアの社会は協調へと進むと読む。

情報技術の進展は東アジアの国家の垣根をフラットに導いている。情報を共有することにより対立が生み出されるという側面も否定できないが多角的な視点による東アジアの経済圏の構築の必要性が増す。

東アジアの直面している脅威は、北朝鮮の核兵器、ミサイル、拉致、予期せぬリーダーの行動、崩壊である。また、中国の拡張主義に伴う安全保障上の脅威である。

不安定要因が高い状況の中、韓国は朝鮮半島の統一を最重要の国策として戦略思考している。ベルリンの壁も中国の天安門事件がきっかけに予測を超える速度で崩壊し、東西ドイは統一とヨーロッパの経済統合が実現された。

明確なビジョンがあれば東アジアの発展の可能性が広がるし、そうでなければ致命的な紛争の餌食となろう。

日本は積極的な平和主義を東アジアに具現化させる必要がある。そのきっかけを醸成するためにも拉致問題を主眼とする北朝鮮とのトップの直接交渉も必要だろう。朝鮮半島の統一の機運を高め東アジアの経済圏構築を実現させるためにも東アジア諸国は戦略的な互恵を相互補完的に実現させる積極的な行動が期待されている。

3月 04

「メディアはメッセージである」と語ったマーシャル・マクルーハンを日本に最初に紹介されたのが評論家の竹村健一先生である。メディアの第一線で半世紀以上も活躍された竹村先生は、「日本の新聞を読むのは海外の新聞に載っているけれども日本の新聞に書かれてないことを探すことにある」と述べておられる。

日本で日本の新聞、テレビ、インターネット等のメディアばかりに接しているといつの間にか偏った考え方に陥ってしまうことがある。日本人という単一民族で構成され社会で日本語だけでコミュニケーションしているとまるで世界は日本を中心に動いているとの錯覚をしてしまうのも当然のことかもしれない。

現代のテクノロジーを駆使すれば日本にいても世界の情報に精通することが可能である。でも圧倒的大多数は、日本のメディアの影響下にあり、どうしても日本の常識からの脱却が難しい。

そこで、メディアを3Dのように立体的に考察することにより日本を中心とする座標軸に柔軟性を持たせ世界観や歴史観を加味したメディアのリテラシーを向上させることができるのではないだろうか。

メディアの力は巨大である。政界、官僚、財界さえも動かす力をメディアは備えている。加えてメディアは大衆を動かす力と大衆の代表であるステータスを兼ね備えている。メディアの本質的な目的は何なのであろうか。読売新聞が1000万部、朝日新聞が800万部と発行部数を競っているように利益追求型である。メディアは情報を提供し大衆に影響を与える。即ちメディアとは大衆に影響を与えながら利益を追求している。

NHKの会長が公共放送のトップらしからぬ発言を行い物議を醸し出している。メディアの権力の頂点にある人物が政官財と癒着し、しかも偏った考え方に固執していたら大衆に悪影響を及ぼすのみならず、世界の中の日本のイメージが大きくそこなわれる。

戦争放棄を憲法で唱えている日本にとってメディアというソフトパワーの役割は非常に重要である。メディアこそ公共の外交である。時の権力が右傾化している時こそメディアとりわけNHKのような公共放送こそ権力を監視する機能を発揮すべきである。

民間のメディアが利益追求型である限り顧客は国内にある。従って民間はメディアのメッセージを海外に発する能力と役割に限界がある。昔、アフリカの奥地で国連の仕事に従事している時、日本との唯一の接点はNHKの国際放送であるRadio Japanだけであった。短波放送の雑音の中で日本語のニュースにかじりついていたことを思い出す。

ウクライナを境にヨーロッパとロシアとの軋轢から軍事的緊張が高まっている。朝鮮半島情勢も予断を許さぬ状況である。歴史問題が根底にある日韓、日中関係も改善の兆しが見られない。尖閣諸島、竹島等の領土問題、靖国問題、従軍慰安婦の問題などの解決にとってメディアの役割は不可欠である。

メディアはメッセージである。メディアにはそれぞれの立場により、また発信し受信する立場によりメッセージは異なるのである。僕はメディアを弁証法的に「正・反・合」と矛盾や否定を超越してより優れた発展段階に導くという姿勢が必要であると思う。

この姿勢とは、3Dのように平面的視点に加え立体的に分析、総合するメディアの能力を高めることである。立体的メディアとは日本という座標軸の他にグローバルな座標軸を加え地政学を眺望する水平的な見方と、歴史観や哲学観といった垂直的な視点をミックスさせた3次元を意味するメディアのあり方である。

日本の平和は軍事というハードパワーでなくソフトパワーであるメディアの役割にかかっていると言っても過言でない。紛争を未然に防ぐ予防外交を実践するためにもメディアを立体的に3次元で発信者、受信者のみならずそれぞれが考察することが重要である。

2月 12

明治維新、それは脱藩した気骨ある志士により達成された無血革命に類似する世界でも稀なる革命である。韓国の朴大統領が朝鮮半島の統一を意識した発言をされるように予測より早い時期に北朝鮮に革命が起こる国際情勢の変化と信頼醸成が構築されているのではないだろうか。

北朝鮮に革命が起こる可能性について歴史のリズムから分析してみたい。

英国の植民地支配に対するインドの民族的反抗運動によるセポイの反乱(1857-59)が19世紀後半の革命の連鎖を生み出したと考えられる。セポイの反乱から2年後に奴隷制に端を発するアメリカの南北戦争(1861-65)が勃発した。この時期、武器商人が蔓延り南北戦争の影響で雄藩の下級武士による幕府倒幕という明治維新(1867-68)が実現されたと考えられる。

坂本龍馬などはグローバルな見識眼を持って南北戦争で余った武器を日本の革命に上手く活用したと考えられる。セポイの反乱、南北戦争、明治維新という一連の革命の源は統治や権力に対する抵抗と反乱にあり、抵抗勢力への武器の供給が可能であったから革命が実現されたのである。

これらの革命の源となる歴史のリズムを現在の北朝鮮に当てはめてみると極めて高い確率で北朝鮮に革命が起こる要因が見えてくる。第一、序列ナンバー2で叔父の張氏の処刑により金正恩第一書記への忠誠が低下し、次第に抵抗勢力が結束する。第二、リベリアのドゥ大統領、ルーマニアのチャウシェスク大統領、イラクのフセイン大統領、リビアのカタフィ大佐しかりいくら恐怖政治を行い国民を処刑しても庶民の抵抗勢力を抑制することは不可能であることを証明している。第三、北朝鮮の生命線である中国とのパイプ役を担ってきた張氏の処刑により金第一書記は中国の後ろ盾を失った。第四、革命は内部で勃発する。市場に食料が不足し、庶民のちょっとした暴動が革命因子を引き出す。不安定要因や革命の兆候が現れた時点で金第一書記に不満を持つ勢力が革命を決行する。

北朝鮮の革命を喚起する勢力は外部にある。第一、明治維新は脱藩した志士が重要な役割を果たしたように、北朝鮮の革命は脱北者が主要な役割を演じる可能性が高い。何故なら北朝鮮内部で革命が勃発した時に海外との交渉を円滑に進めるために脱北者に勝る勢力はない。第二、北朝鮮の革命は朝鮮半島の統一において韓国にとって最大の好機でありまた紛争という危険因子をはらんだ最大の危機でもある。第三、革命には武器が不可欠である。米国、ロシア、中国あるいは軍産複合体、武器商人は北朝鮮の革命を喚起する武器を提供する。

北朝鮮内部においても北朝鮮を取り巻く国際情勢の変化においても北朝鮮の革命を醸成する要因が極めて高い。革命により庶民を含む多くの犠牲が生みだされるのが常である。しかし、明治維新においては無血革命が成し遂げられた。その主役となったのが脱藩した志士達であった。その意味においても脱北者から本当に優秀な革命家が活躍できる環境を整えることが重要だと考えられる。

韓国で朝鮮半島統一の機運が生まれつつある。その機運はオリンピック開催という機運を遥かに超えた国家の命運に値する。日本は韓国を通じた朝鮮半島の統一、しかも無血革命に類似した統一をバックアップすることで歴史問題や領土問題といった朝鮮半島統一と比較し生産的でない動きを相殺することができるのでないだろうか。何よりも紛争を未然にくいとめながらも北朝鮮の革命と朝鮮半島の統一、そして拉致問題解決といったことを考察することが重要である。

1月 20

北朝鮮という世界で最も不確実性の高い国が急変している。そして日本の目と鼻の先の韓国や中国との関係が尋常でない。日本国内でもハードボイルド的な強い国家像が描かれその方向に向かいつつある。100年前に第一次世界大戦が勃発した。当時のドイツやフランスとの不安定な関係以上に核やミサイルを持つ北朝鮮の危険因子を冷静に分析すると北東アジアの動向は極めて深刻である。

地政学的変化が顕著であるからこそ変化に対応する柔軟な発想が求められる。北朝鮮の軍事国家や最近の中国のハードボイルドに対して勢力を均衡させる意味で、日本もハードボイルドな姿勢を示すことも大切かもしれない。

しかし、北東アジアの地政学的変化に乗じて安全保障の軍事力を強化するだけでは歴史は繰り返す。そこで覇権安定型、勢力均衡型、集団的安全保障の他に経済協力や文化交流を主眼とする協調的安全保障の充実が不可欠である。

相手を挑発する安全保障の他に、尊敬されることにより国家の安全を保障するという新たなる発想を考察する必要がある。

永世中立国であるスイスやオーストリアは、国連機関を誘致している。国連の第三都市であるウィーンの国連機関に勤務した時、ウィーン市は近代的な国連ビルを年間1シリング(10円)で提供していると聞いた。国連ビルを提供し国連職員を優遇することにより、大規模な軍隊を編成するより他国の侵略や核攻撃から守ることが可能だというのが冷戦中の永世中立国の考え方であった。優秀な外国人が多くいるほどそれらの人々が捕虜と同じ役割を果たし敵国からの核攻撃を軽減させることができる。この発想こそ新たなる安全保障となるのではないだろうか。パリのルーブル美術館やロンドンの大英博物館も人類にとってユニーバーサルな世界遺産と考えられ核攻撃の可能性を軽減することにつながる。

同じ発想で東京オリンピックの効用を考えてみれば面白い。オリンピックという一過性のイベントとして終わらせるのでなく、世界の叡智を結集して現代建築のフロントランナーとなるスタジアムや都市設計を創造する。人間に最も適した建物と環境が「国際公共財」として機能することによりオリンピックレコードが更新され「スポーツの都・東京」としてのブランドが生まれる。

東京オリンピックが終わった後も、世界中のアスレートが東京に住みスポーツ関連のビジネスが創造され健康のためのイノベーションが生まれる。魅力的な建築や都市設計だけでなく世界トップクラスのオリンピック選手が居住しビジネスが生み出されることにより世界から尊敬され核攻撃の脅威を軽減させることになるのでないだろうか。

中国の軍事費上昇は勢力均衡型の考えから脅威であり、集団的安全保障という日米同盟の強化につながる。日本が米国に頼らず独自の安全保障を構築することも北東アジアの地政学的変化を鑑みると重要である。

百年前の第一次世界大戦勃発から日本は国際協調主義も軍国主義も経験し、世界で唯一核戦争の犠牲となった。日本しかできない世界から尊敬される安全保障がきっとあるはずである。

積極的平和主義や軍事力の強化が叫ばれる今こそ、オリンピック開催にあわせ日本から世界へ発信し、世界から尊敬される安全保障について真摯に考えることが大切である。それは一過性のオリンピック開催というミッションでなく、人類の叡智を結集した国際公共財が平和を構築するという積極的平和主義である。軍事費に莫大な資金が使われるより世界を圧倒する建築と都市設計に資金が有効活用されることを期待する。