2月 03

チュニジアに始まった民主化のうねりが、エジプトに飛び火し、百万人規模の民主化のデモがムバラク政権を転覆させようとしている。この動きは、1989年の天安門事件やベルリンの壁崩壊に並ぶ大きなパラダイムシフトであり、アラブやイスラエルの中東情勢のみならず、世界中の軍事独裁政権を一掃する可能生を秘めているのではないだろうか。

その根拠として、インターネットという情報技術の進展が、市民の声を瞬く間に世界に伝達することを可能にしたことと、米国のダブルスタンダードとも考えられる非常に戦略的な外交・安全保障戦略が関連していることが挙げられる。

インターネットによる市民パワーが軍事力をも陵駕した例としてイラク戦争が思い出される。恐らく8年前の米国によるイラクへの先制攻撃までは、圧倒的な軍事力を行使した国が被占領国の市民パワーに敗北するとは考えられなかった。また、米国のマスメディアが市民という非マスコミのパワーに席巻されるとは予測できなかった。従軍メディアの如く米国のマスメディアが、民主化という正当性を掲げてイラク国民や世界に伝達しようとしても、先制攻撃されたイラク国民の目線で世界に発信されたyoutube等の現実の映像には及ばなかった。

インターネットという情報技術は、ペンタゴンの技術革新に起因している。回り回ってそのインターネットの情報技術が市民を介して軍事力をも陵駕したのである。チュニスやカイロで勃興している軍事独裁政権打倒への市民による民主化の大波は、インターネットという21世紀の怪物によって生み出されたのである。

90年近く前にロシアの経済学者コンドラチェフは、景気循環の長期ウェーブは、戦争、技術革新、貨幣の供給量(機軸通貨)、天然資源の需給のバランスによって影響されると述べている。一国で突出した世界の軍事費のシェアを占めている米国は、技術革新並びに世界通貨の面でもトップランナーである。軍事、インターネット、ドルという3つが複合的に機能するところに米国の底力があるのではないだろうか。

米国は、中東諸国に民主化の重要性を掲げているが、その民主化を推進するために国家の財政を圧迫する武器を提供している。また、一部の過激派を鎮圧するために必要以上の軍事力で威嚇している。米国の行動がダブルスタンダートと言われるのは、ムバラク政権のような独裁政権に対しても、アラブとイスラエルの架け橋としての役割に重きを置き、エジプト市民の声を無視してきたところにある。

しかし、今回のエジプトの民主化のうねりは、親米政権を擁護する状況でなく、オバマ政権は、ムバラク大統領の辞任を加速させるメッセージを送った。恐らくメディアでは発表されない外交の舞台裏で、どのような暫定政府を樹立すかかでユダヤとアラブの駆け引きが成されているのだろう。中東の求心力の要であるエジプトの内政の動向は、アラブ全体に大きな影響を及ぼすであろうし、イスラエルとパレスチナの命運にも関わってくる。

ペンタゴンが開発に関与したインターネットが中東や北アフリカの市民パワーを躍動させ、親米政権の崩壊へと導いている。市民パワーの背後には、親米と反米が渦巻いている。米国のインテリジェンス機能がどのように中東を動かそうとしているのか。どのような中東情勢の変化が起ころうとも、米国の軍産複合体にとって決してマイナスにならないし、また中東諸国の政変は、イスラエルの勢力を高める好機となるのではないだろうか。