6月 02

 書店に並ぶ「もし高校野球の女子マネージャーが、ドラッカーのマネジメントを読んだら」という「もしドラ」の本を見て、直ちに大学の講義で、ドラッカーの実務的な経営戦略をベースに、就職難から国難まで様々な難題に打ち勝つためのディスカッションを行った。イメージ図

 500人の学生が履修する講義では、学生の集中力を維持させるのは、容易でない。しかし、「もしドラ」を学生が直面する就活という現実に置き換えて学生が主役となる講義を行ったところ、想像以上のインパクトがあった。つまり、教育で重要なことは、世界に通用する恒久的な法則を習得し、豊かな人生をおくるために必要となるビジョンやシナリオを学生自身が考える点にあるのではないだろうか。

 改めて学生の立場で現在の日本経済の状況における就活を考えてみると厳しさが実感できる。戦後の日本の経済発展の変遷を経済復興期(1945-1954)、高度経済成長期(1955-1976)、経済安定期(1977-89)、構造改革期(1990-現在)の4つに分類すると、復興期においては、米国の対日経済支援や朝鮮戦争特需の恩恵を受け、経済成長期においては、重化学工業や輸出主導型産業の進展が所得倍増計画の実現に貢献し、経済安定期においては、二度の石油ショックや米国経済の危機に伴う変動相場制への移行やプラザ合意による極端な円高の洗礼を受け、国際分業による工場の海外移転が加速された。そして、構造改革期においては、産業の空洞化が加速され、それを予防する政策として莫大な国債が発行され内需景気刺激策としての無駄な公共事業が行われ、GDPの2年分以上の借金を抱えてしまったのである。

 昭和から平成に変わり20年以上日本の経済発展が劣化が継続している。追い討ちをかけるように3・11の自然災害と原発事故のダブルの悲劇に呪われたのである。戦後最悪の状態であり、学生にとって夢と理想が吹っ飛ぶ程に現実は冷たいのである。

 そこで、ドラッカーのマネージメント戦略の登場である。会社の目的は、顧客を創造すること。顧客が必要なのは、生産性の向上をともなったマーケティングとイノベーション。事業の姿を具体的に考えるために、マーケティング、イノベーション、経営資源、生産性、社会的責任、費用としての6つの視点で考える。

 日本の社会的ベクトルは、少子高齢化社会において、「幸せと豊かさを実感できる社会システムの構築」にあり、経済の成長ベクトルは、地球環境問題、ITの進展、グローバル化の進展、ライフサイエンス、農業の分野にある。従って、日本経済の停滞をブレークスルーするのは、これらの分野をドラッカー的にマネージメントするかにある。学生は、これらの前提条件を基本に学生の柔軟な発想で、企業のリクルートする側を驚かす刷新な青写真を描くことで、就職難の世の中に一抹の光を見出すことが可能となると考える。

 その参考になるのが、先日、参議院の公聴会で、脱原発とメガソーラーをはじめとする自然エネルギーの実用的で商機のある大胆な提案を行ったソフトバンクの孫社長である。ドラッカーの経営戦略と孫社長のビジョンが見事に重なる。既得権益や前例など悪しき慣習をぶち破り、大胆な発想が受け入れられる面白い現代社会が到来しており、学生にもチャンスがあるのではなかろうか。

<参考文献>
・もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら 岩崎夏海 (ダイヤモンド社刊)
・マネジメント[エッセンシャル版]  P・F. ドラッカー、 上田 惇生 (ダイヤモンド社刊)

4月 04

10年前の9・11は、国際テロにより米国と世界が動揺した。現在、3・11の地震と津波による自然災害に加え、人工的な要因が起因する原発事故により、世界は、日本に注視し、同情し、協力しようとしている。ユーラシア大陸の東の果ての列島日本は、今までに幾多の自然災害の試練に耐え、それが日本のバックボーンとなって来た。また、世界で唯一、原爆という洗礼を受けた日本は、軍事を放棄し恒久平和を希求する国家に成長した。イメージ図

 日本人は如何なる困難な状況に於いてもそれを超越するDNAを備えていた。ならば、この現在進行形の未曽有の大惨事に於いても、最も賢明でスマートな解決策並びに復興への処方䇳があると確信する。しかも、原発事故という地球のエコロジーに多大な影響を及ぼす問題に於いては、全世界の叡智を結集した敏速な対応が不可欠であり、まさに日本は今、命運を決定づける分水嶺の真っただ中にある。以下、復興のための7つの方策を考察する。

1・国際協力
 世界史に於いても自然災害の支援で、これ程、短期間で世界の大多数が一国のために国際協力の手を差し伸べたことがあったであろうか。特に、米国は、「トモダチ作戦 」を展開し、国連は、地震発生の同日に英語と日本語で日本支援へのメッセージを発した。また、周辺諸国の韓国、中国、ロシアは、歴史認識や領土問題などの温度差があるにも拘らず、いち早く支援を表明した。日本を取り巻く国際情勢は、大震災の災いが転じ、最も良好な国際環境にある。自然災害を通じた戦略的な互恵により、新たなる安全保障の構築も考えられよう。

2・政治への影響
 失われた10年や20年は、政治の混乱による処が大である。表層的には与野党の対立も観られるが、本質的には、難局を乗りきるために「オールジャパン」としての政治の求心力が発生している。戦後、日本が精神性に於いても最もまとまっている。

3・経済的影響
 復興支援に必要とされる予算は、約20兆円だと予測される。政府債務残高がGDP比230%に達する異常事態において国債で復興支援を賄うのは多大なリスクを伴う。間接税として、復興支援のための限定的な消費税を導入することが具現化されることにより、財源が安定し、復興支援を通じた経済刺激策として世界は評価するだろう。欧米にはチップという制度があるように、消費税に抵抗があるなら、飲食時に、復興支援のための限定的なチップに類似した10%のサーチャージを課すのも一案である。

4・エネルギー戦略の転換
 地震ベルト地帯が日本列島に集中している。いくら日本の高度な原発の技術力を持ってしても、自然災害への対応が困難であるのが現実となった。日の丸という日本の国旗が日本のアイデンティティとして明示しているように日本は、徹底的に太陽エネルギーを推進する好機であろう。

5・節電
停電による経済のマイナス要素を回避するために、夏場に向け、極端なサマータイムの導入や、電力の節約につながる週末を含む最も効率的な企業活動を行い、電力の節約に貢献した家庭や企業には、特典を与えたり、貢献しなければペナルティーを課すこと等、あらゆる方策を実行する。

6・復興のグランドデザイン
 宇宙から映し出されるリアルタイムの地球の映像を観ながら「世界の中の日本」としての東北地方の壮大な空間開発計画を描く。それは、津波を防ぐ為に高い防波堤やコンクリートで固めるという発想でなく、自然との共生を重視した農林水産業プラス最先端の技術の集約という挑戦である。

7・政治、経済、安全保障を包括するグローバルな戦略的互恵
 福島原発事故は、日本というフレームを超えた一蓮托生の問題である。世界の叡智を結集させた戦略的互恵に基く国益、地球益のための広くて深い日本の政治、経済、安全保障を包括したビジョンを構築しなければならない。

http://fm797thinktank2.seesaa.net/

3月 09

ソーシャルメディアのつぶやきに端を発した中東の民主化のうねりは、アラブ全土に拡張する勢いである。通常ならアラブの不安定要因は、イスラエルやアメリカに向けられるのだが、今は、独裁政権に向けられている。その根拠は。そして、その影響でどのようなプラスとマイナス面が発生するのだろうか。更に、中東のうねりは、アジアの独裁国家、北朝鮮にも飛び火するのだろうか。イメージ図

 ニューヨークタイムズのトーマス・フリードマンの分析は面白い。オバマ大統領のカイロ演説が、中東の民主化に影響を与えたと述べている。オバマ大統領のミドルネームは、フセインである。イスラムの血を引き継いでいる黒人なのである。このような人物がアメリカの大統領になれる程、アメリカの民主化が進んでいると認識したアラブの若者が民主化のきっかけを生み出したのである。また、インターネットのGoogleアースでつぶさに世界の発展や住宅事情を観ることができる。アラブの若者たちは、アブダビとパレスチナの貧富の格差を認識し、独裁政権への不満が爆発したのだと展望している。

 アラブ世界の3つの幕大な赤字は、教育の赤字、自由の赤字、そして女性の権限に関する赤字である。石油という歳入がある国は、富が一部の権力に集中するし、生活のために何もする必要も無いので向上心が削がれてしまう。石油に頼れない国は、アラブ、イスラエル、アメリカの三角関係において勢力を均衡させる役割を演じ維持されてきた。

 30年、40年という恐ろしく長い独裁政権が継続する中、気がつけば、教育、自由、女性の地位という若者の自立に不可欠な要素が完全に欠乏してしまった。教育と自由がなければ雇用の創出もない。若者の人口比率が高いアラブ諸国において、王族や独裁政権は、若者が希求する仕事に対する野心や向上心に反することばかりをしてきたことが今回の中東の民主化の根拠であると考えられる。

 中東情勢の不透明感が高まる程、石油等の資源が高騰する。資源高騰で漁夫の利をまともに得るのは、ロシアや中央アジアの資源国家である。また、バーレンでは、少数のスンニ派によって抑圧されてきた大多数のシーア派が民主化に拍車をかけている。最大の産油国であるサウジアラビアに接し、ペルシャ湾の入り口に位置し、アメリカの第五艦隊の司令本部があるバーレンに政変が起これば、中東におけるスンニ派とシーア派の勢力が変革する。

 つまり、アメリカの視点では、イラク戦争で失敗し、イラクとイランがシーア派で結びつき、バーレンやひいては、サウジアラビアまでシーア派の勢力が拡張し、石油資源がイランを中心とする反米政権によってコントロールされる可能性もあるのである。

 しかし、別の角度から展望すれば、親米政権という名目で民主化が抑制されてきたアラブ諸国が崩れ、新たな政権が生まれ一時的な混乱が起きても結局は、中東におけるイスラエルは、スンニ派とシーア派の混沌から漁夫の利を得ることができると考えられる。アメリカの軍民複合体もビジネスチャンスを得ることができるだろう。

 石油価格が上昇することで、いよいよ本格的なエネルギーの安全保障として、脱石油によるイノベーションが活発化すると考えられる。オバマ大統領が提唱したグリーンニューディールが具体化される可能性が高い。これは、日本が得意とする環境に優しい技術や原子力の分野の刺激策となると考えられる。中東の民主化のうねりは、中長期的には日本の利益にも結びつくと考えられる。

 独裁政権がインターネットをいくら監視、検閲してもイノベーションと抑圧された庶民には勝てぬ。歴史の必然性から考察すると、北朝鮮という稀なる独裁国家もいずれは、崩壊する。金体制が維持できたのは、アメリカと中国が北東アジアの勢力均衡型の安全保障を戦略思考したからである。

 しかし、国家という枠組みを超越した中東で発生した市民の民主化がイノベーションの波に乗った時には、北朝鮮にも革命が起こると予測する。その時に備え、エネルギーの安全保障と並ぶ北東アジアの安全保障を確立する必要がある。民主党の分裂など国内の 問題に振り回されている場合でない。今、まさに国際情勢の激動の中で、日本の役割を考察する時期が到来している。

2月 03

チュニジアに始まった民主化のうねりが、エジプトに飛び火し、百万人規模の民主化のデモがムバラク政権を転覆させようとしている。この動きは、1989年の天安門事件やベルリンの壁崩壊に並ぶ大きなパラダイムシフトであり、アラブやイスラエルの中東情勢のみならず、世界中の軍事独裁政権を一掃する可能生を秘めているのではないだろうか。

その根拠として、インターネットという情報技術の進展が、市民の声を瞬く間に世界に伝達することを可能にしたことと、米国のダブルスタンダードとも考えられる非常に戦略的な外交・安全保障戦略が関連していることが挙げられる。

インターネットによる市民パワーが軍事力をも陵駕した例としてイラク戦争が思い出される。恐らく8年前の米国によるイラクへの先制攻撃までは、圧倒的な軍事力を行使した国が被占領国の市民パワーに敗北するとは考えられなかった。また、米国のマスメディアが市民という非マスコミのパワーに席巻されるとは予測できなかった。従軍メディアの如く米国のマスメディアが、民主化という正当性を掲げてイラク国民や世界に伝達しようとしても、先制攻撃されたイラク国民の目線で世界に発信されたyoutube等の現実の映像には及ばなかった。

インターネットという情報技術は、ペンタゴンの技術革新に起因している。回り回ってそのインターネットの情報技術が市民を介して軍事力をも陵駕したのである。チュニスやカイロで勃興している軍事独裁政権打倒への市民による民主化の大波は、インターネットという21世紀の怪物によって生み出されたのである。

90年近く前にロシアの経済学者コンドラチェフは、景気循環の長期ウェーブは、戦争、技術革新、貨幣の供給量(機軸通貨)、天然資源の需給のバランスによって影響されると述べている。一国で突出した世界の軍事費のシェアを占めている米国は、技術革新並びに世界通貨の面でもトップランナーである。軍事、インターネット、ドルという3つが複合的に機能するところに米国の底力があるのではないだろうか。

米国は、中東諸国に民主化の重要性を掲げているが、その民主化を推進するために国家の財政を圧迫する武器を提供している。また、一部の過激派を鎮圧するために必要以上の軍事力で威嚇している。米国の行動がダブルスタンダートと言われるのは、ムバラク政権のような独裁政権に対しても、アラブとイスラエルの架け橋としての役割に重きを置き、エジプト市民の声を無視してきたところにある。

しかし、今回のエジプトの民主化のうねりは、親米政権を擁護する状況でなく、オバマ政権は、ムバラク大統領の辞任を加速させるメッセージを送った。恐らくメディアでは発表されない外交の舞台裏で、どのような暫定政府を樹立すかかでユダヤとアラブの駆け引きが成されているのだろう。中東の求心力の要であるエジプトの内政の動向は、アラブ全体に大きな影響を及ぼすであろうし、イスラエルとパレスチナの命運にも関わってくる。

ペンタゴンが開発に関与したインターネットが中東や北アフリカの市民パワーを躍動させ、親米政権の崩壊へと導いている。市民パワーの背後には、親米と反米が渦巻いている。米国のインテリジェンス機能がどのように中東を動かそうとしているのか。どのような中東情勢の変化が起ころうとも、米国の軍産複合体にとって決してマイナスにならないし、また中東諸国の政変は、イスラエルの勢力を高める好機となるのではないだろうか。

1月 08

はじめに

メディアは、貧困問題をどのように伝え、どのような社会的影響を及ぼしているかについて、国連の地域開発の専門家としてアフリカに4年間生活した経験をベースに多角的に論じたく思う。

第一に貧困を考えるにあたり先進国の尺度とアフリカなど途上国の尺度は異なるということ。
第二に、紛争や環境破壊など人類が直面している根源的な問題に、貧富の格差や貧困があるということ。
第三に、アフリカや北朝鮮の飢餓の現状をメディアが報道しなければ国際的な関心が高まらないこと。
第四に、貧困問題を打開する経済協力や技術支援について考察する。
第五に、学生がアフリカ等の貧困問題に向けた活動にどのように関わることができるかについて提案する。

1・貧困を考えるにあたり先進国の尺度とアフリカなど途上国の尺度は異なるということ。
国連工業開発機関の専門家として、西アフリカ、リベリアに1987年から1989年の2年間駐在した。リベリアの首都モンロビアから、内陸部に250キロ程入った、象牙海岸とギニーの国境に近い、まさに、アフリカのアフリカたる地の果てであった。

この地には、当然のことながら電気や水道といった当たり前の社会資本整備がない。先進国の尺度では計り知れない貧困があった。日本から来た短期間のJICA専門家は、この地の中小企業の現状を観察して、まるで弥生時代のレベルに等しいのではとの冗談のような感想を述べたことが思い出される。

日本では、水道や電気といった当然のインフラ整備のもとで暮らしてきた。日本の恵まれた先進国の視点でアフリカの生活を展望すると、大部分が貧困に写る。しかし、先進国の生活を経験したことのないアフリカ人にとっては、貧困という概念がないことも確かである。本当にアフリカの奥地に入ると貨幣がなくとも生活が成り立つことを学んだ。リベリアの奥地では、雨期と乾期の差はあるものの常にバナナ、パイナップル、ココナッツ、パパイヤ、マンゴなどのトロピカルフルーツを自由に手に入れることができた。痩せて飢えに直面している人々と会うことは稀であった。

太陽と水と土地と労働があれば、食糧という飢えに苦しむことはない。しかし、サブサハラ南部や東アフリカの一部は、雨が降らず、農作物が育たず、完全に飢餓に直面しているのも現実である。南アフリカと西アフリカのリベリアに4年間生活し、旅行で北アフリカ、東アフリカを訪れたが、本当の食糧が自給できず、またお金がなく食糧を手に入れる事ができず飢餓の瀬戸際にいる人々に会ったことは希であった。

雨が降らず大地が乾き食糧が不足し痩せこけて飢餓に苦しむ人々の姿は、メディアの報道を通じ知ることができた。また、リベリアの農村部で見かけることがなかった貧困の現状を首都モンロビアで観察することができた。一般的に、途上国の都市部では、スラム街等の貧民街があり、そこには農村部で自由に得る事ができるトロピカルフルーツ等の食糧がないことから貧困が存在している。でも、その貧困も大地が乾燥し、食糧が全く育たないという飢餓に比較すると死に直面している飢餓とは異なると思われる。

アフリカの現地経験を経て、国連工業開発機関本部ウイーンの本部職員の北朝鮮の地域担当官の経験も経て、1990年前半に北朝鮮の飢餓に直面しているとされる現地の調査を行った。当時、北朝鮮に入る事が制限されていて(現在もそうであるけれど)、正確な北朝鮮の現況を把握することは困難であった。当時の報道では、三百万人の北朝鮮の市民が飢餓に直面しているとあった。現在も北朝鮮の飢餓に関する報道がなされている。

90年代に北朝鮮に少なくとも3回入り北朝鮮の貧困の現況をこの眼で観察し実感した事は、国連等の北朝鮮に関する食糧危機や飢餓に苦しむ報道は、誇張された報道がなされる傾向にあるのではないかということである。雨が降らないことに起因するアフリカの飢餓は、本格的な飢餓であるけれどの、北朝鮮の飢餓は、政治的な問題から発生する飢餓である。換言すると、雨が降り、太陽と大地と労働力に恵まれた北朝鮮は、人工的な飢餓であると考えられる。

韓国や先進国の目線で観察すると北朝鮮は貧困に直面していると写るが、貧困で苦しむアフリカの現実と比較すると、貧困の深刻の度合いが異なってくる。メディアが報道する貧困についても先進国の尺度のみならず途上国の視点も取り入れた多角的な尺度で考察することが重要であろう。

2・アフリカにおける社会的・経済的貧困の原因とその影響
貧困は何故起こるのか。戦争や紛争、人工爆発、富の再分配機能が不足したり、気候変動、病気、失業、教育の機会に恵まれない場合など、貧困の原因は多様である。また、貧困が及ぼす影響として、戦争や紛争、環境問題、病気、教育問題などが考えられ、先進国や途上国を問わずすべてが抱える問題は一蓮托生であり、貧困問題を少しでも解消することで世界平和の貢献につながると考えられる。

アフリカには、構造的な搾取のシステムが存在する。アフリカの豊富な天然資源を獲得し、安定した供給を保つために、一部の先進国や多国籍企業は、低い賃金で現地の労働者を雇用する。天然資源の国際市場の動向により、労働者の賃金も雇用状況も変化する。多国籍企業などの巨大資本は、現地の雇用創出に貢献もするが同時に、貧富の格差を発生させる。

一般的に、アフリカ等の途上国の紛争の一因は、経済的な格差に起因すると考えられている。政治的対立、宗教的対立、民族的対立などの根源には、経済格差による不確実性がある。これは、リベリアで中小企業の育成のプロジェクトに従事した時に実感した。

アフリカにおいて経済格差があまり存在しない時には、紛争は少なかった。リベリアを例にとるとゴムのプランテーションなど多国籍企業による天然資源に起因するビジネスが現地の貧富の格差を生み出した。

その貧富の格差を解消するために、多国籍企業の他に公的機関として国連や開発援助に関わる組織、NGO等は、重要な役割を果たしている。国連の開発援助の仕事を通じ、現地の視点で地元の天然資源を効率的に使い、その付加価値を高めるための製造技術を移転することにより、現地の人々の雇用創出と所得を向上させることが可能となることを経験した。

アフリカの現地を拠点に中小企業育成のプロジェクトに従事することで、先進国から物資を支給したり社会資本整備だけではアフリカの貧困を解消することが不可能であると感じた。つまり、一方的な先進国からの経済協力ではなく、現地の人々が付加価値を高めるための製造過程に従事する人々への機会の提供が大切であるのである。

貧困を解消するため、また社会を安定させるためには、雇用創出としての仕事が重要である。開発援助の基本は、先進国からのものを供給するのではなく、もの造りの基本を現地の人々に提供することにある。つまり、教育が貧困を解消する原点である。

先進国が経済発展を維持するためには、途上国の天然資源が必要である。途上国にとっては、天然資源を輸出するだけでは、現地の特定の人々を豊かにするだけで途上国の社会全体にとって貧富の格差を助長することになる。加えて、アフリカの木材資源などの伐採などは、地球温暖化に悪影響を及ぼす。森林の減少を防ぐためにも付加価値を高めるための技術移転と教育が重要となる。先進国と途上国の技術の格差を縮小させるための教育に力点をおいた開発援助支援を強化することでアフリカ等の貧困を解消することで可能となろう。

3・アフリカや北朝鮮の飢餓の現状をメディアが報道しなければ国際的な関心が高まらない
イギリスのBBCやアメリカのVOAなどは、アフリカに特化したプログラムを頻繁に放送している。これらのメディアを通じリアルタイムにアフリカの現状を把握することができる。これらの国際放送を通じ、世界中の人々がアフリカの現状をモニターすることができるのみならず、アフリカの現地の人々の重要な情報源となっている。

アフリカの現地で生活すれば、不安定なアフリカの社会情勢に関する情報を得る事は容易でない。従って、アフリカの現状を放送する先進国のメディアの役割は重要である。また、先進国のメディアがアフリカの貧困の現状を世界に伝えなければ、アフリカの貧困を解消するための経済協力や技術移転などの必要性が理解されない。

先にも述べたように、貧困が紛争の一因であり、地球環境問題に悪影響を及ぼす。メディアが、アフリカの貧困の現状を世界にタイムリーに伝えることにより紛争を抑止し、地球環境問題にも重要な役割を果たすことになるのである。紛争の根本原因となる貧困をメディアがきめ細かく伝えることにより、世界の途上国への関心が高まり、先進国と途上国の格差が縮小されるための経済協力等の活動が活発になり、ひいては世界平和のための大きなパワーになるのである。

国連の元事務総長であるブトロス・ガリ氏は、1992年に「平和への課題」を発表した。国連や国際社会が世界平和を達成するのに、予防外交、平和創造、平和維持、平和建設の4つが重要な活動となり、とりわけ、紛争を未然に防ぐための予防外交に力点をおくことの重要性が 示されている。それを裏付けるように、リベリアでの国連の開発援助の仕事を通じ習得したことは、紛争の根本となる貧困の解消であり、紛争が発生すれば取り返しのつかないぐらい多大な犠牲を伴うということである。

予防外交とは、とどのつまりは、歯医者に例えれば、名医は虫歯を抜くのでなく虫歯にならないような治療を行ったり、情報を提供することである。まさにメディアの役割は、予防外交の重要な役割を担っていると考えられる。アフリカにはおいて紛争が発生する時、何らかの予兆があるものである。その不安定要因の根源には貧困や飢餓が存在している。メディアがその情報を定期的に放送することにより、予防外交につながるのである。

リベリアの奥地には、アメリカの平和部隊として派遣されたアメリカ人によるラジオ放送があった。現地で開発援助の仕事に携わる人々の情報源となると同時に現地の人々の貴重な社会・経済情報となっていた。アフリカの奥地でもラジオというメディアを通じ、農産物の市場動向など都市部と村落の価格差などの生活やビジネスにとって必要な情報を把握することが可能となった。

BBC,VOA,日本のRadio Japanなどの国際放送は、電気や水道といった基本的な社会資本整備が整っていないアフリカの奥地に世界の動きを伝えている。英語のみならず、アフリカの現地の言語で放送をしているので社会的な影響力は非常に大きい。また、現地から発せられる情報が世界に伝えられ、BBCやVOA等のの有力な国際放送は、情報を双方向にバランス良く発信している。

植民地時代の遺産もあり、イギリスをはじめとするヨーロッパ諸国のアフリカへの関心が高く、それがメディアにも現れている。また、国際的なメディアがアフリカへの関心が高いのは、イデオロギーによる冷戦の産物でもある。冷戦中、アメリカを中心とする資本主義の勢力とソビエトを中心とする社会主義陣営の勢力がラジオ等のメディアを振るに活用した。イデオロギー的にアフリカ人を洗脳したという側面もあった。

北朝鮮の貧困の状況を調査することが可能なのは、国連機関等の北朝鮮政府が認めた公的機関に限定される。調査した内容を公表するまで複雑な検閲が行われる。従って、国連機関等が発表した北朝鮮の食糧事情等は、北朝鮮にとって都合のいい情報が流さてることもあり得る。

北朝鮮で開発援助のプロジェクトに関わったNGOが北朝鮮政府に都合の悪い情報を公開したところビザの延長を認可しないということがしばしば起こっている。北朝鮮のような独裁国家の現状を把握し分析することは困難である。従って、多岐に渡る分野からの多角的な情報を総合的に分析することが重要である。

例えば、北朝鮮の食糧事情は、十数年間、洪水や干ばつの自然災害の影響で、農産物の生産量が著しく低下し、飢餓での犠牲者が300万人という報道もあった。人口の一割近くの犠牲者が出たということなら大変深刻な事態である。また、別の報道では、飢餓による犠牲者は、30万人程度だと言われている。いずれにしても、農業生産性が低下し貧困に直面していることは確かである。

国連機関のミッションやシンクタンクの研究員として、北朝鮮の現地調査を数回行った。北朝鮮に入ったのが90年前半と後半であり、飢餓の現況をメディアを通じ、知ることができたが、実際、現地調査で観察したことは、想像していたより北朝鮮の食糧事情や生活は、飢餓という状況ではないという現実であった。

同行した日本の専門家は、北朝鮮の生活水準は、貧困レベルに達していると語っていたが、アフリカの奥地や貧民街を知っている視点からは、北朝鮮はアフリカの飢餓に比較すると極端な飢餓の範疇に値しないと考えられた。

このように北朝鮮のような特殊国家においては、発信する側の見方により情報の不確実性が高まるのである。貧困の度合いも比較や経験によって左右されるのである。また、北朝鮮が国際的な支援を得るためには、飢餓に直面している状況を大きく報道した方が有利なのである。

ワシントンで開催れたメディアのシンポジウムにて、CNNの代表から「メディアは、真実と噂と嘘の3つしか伝えない」という含蓄のある話を聞いた。報道する側は、真実だと思って伝えようとしても、時を経て検証することによりそれが偽った嘘の報道であったということもある。真実の報道が噂や嘘に変化するのなら、北朝鮮のような国家統制により情報が操作されている国家における報道は信憑性が低くて当然である。

北朝鮮におけるメディアの貧困に関する報道は、アフリカと同様に予防外交の観点から非常に重要である。北朝鮮の貧困についての報道がなされなければ国際的な関心も高まらないし、国際社会による支援も増えないので北朝鮮の犠牲者が増加する。一方、情報操作によりメディアが独裁国家に利用されることもある。

ニューヨークタイムズの外交コラムニストのトーンマス・フリードマン氏が、メディアの報道を4つの視点から読み解く必要があると語っている。それは、第一は、メディアにより発表された情報、第二は、現実的理由、第三は、道義的理由、第四は、本質的理由である。

この4つの視点を北朝鮮の貧困の報道に当てはめると発表された情報は、飢餓で300万人の犠牲者が発生した報道、現実的理由は、洪水や干ばつなど自然災害がもたらしたものであり、北朝鮮政府の失策が影響している、道義的理由は、北朝鮮の2400万人の一般人には罪がなく道義的観点から援助を実施すべきであり、本質的理由では、金体制を維持するための生き残り戦略として、あらゆる瀬戸際外交が行われており、貧困や飢餓という報道事態が北朝鮮の瀬戸際外交の一環であると考察されるのである。

4・貧困問題を打開する経済協力や技術支援について考察する。
前述したように、メディアの役割として貧困を打開するためには予防外交の一環となるアフリカや北朝鮮等の貧困に直面する報道を頻繁に行うことが重要である。国際社会の関心が高まり経済支援が増えるが、その支援が持続可能な支援でなければいけない。そこで、開発援助に携わる専門家が、現地に長期滞在しながら経済協力や技術移転に従事する必要がある。

貧困の原因を現地の目線で分析し、貧困から脱却するための中小企業の育成等の経済協力プロジェクトを実施することが重要である。専門家が去った後でも現地の人々が専門家から習得した技術を活かし生産を継続し雇用の機会が拡大しなければいけない。即ち、人づくりや教育への技術支援が重要なのである。

リベリアの奥地で国連機関の専門家として中小企業の育成等のプロジェクトを行った。このプロジェクトにマイクロファイナンスがあり、その特徴は貧困の緩和であった。現地の森林資源を活用し、家具製造などを推進した。世界から家具製造の専門家を招き、現地ででワークショップやセミナーを開催した。製造機械購入のためや運転資金などの融資を行った。お金の使い道や返済計画について個別アドバイスを行った。きめ細かな公的な援助機関の支援を受けながら、現地の人々は雇用の機会を得たり自らビジネスをスタートできたのである。2006年には、このようなマイクロファイナンスのビジネスをバングラディッシュで発展させたムハメド・ユヌス氏がノーベル平和賞を受賞したのである。

貧困を解消するためには現地に根ざした経済協力が必要である。また、援助機関に携わる専門家が現地で長期滞在しながら現地の状況をメディアを通じて伝えることにより真実に近い情報が世界中の人々に到達するのである。

極度の貧困を半減させるために国連は2000年9月に国連ミレニアム宣言を採択した。このミレニアム宣言には、平和と安全、開発と貧困、環境、人権と優れた統治、アフリカの時別なニーズを課題に掲げ、21世紀の国連の役割に関する明確な方向性を掲示している。2015年の達成を目指し、国連や各国政府は、貧困の半減に取り組んでいるのである。

このように国連の最も重要な達成目標は貧困を半減させること
にある。国連の貧困撲滅の活動を支援するメデイアの報道は、
世界平和への有効なベクトルとなりうる。

5・学生がアフリカ等の貧困問題に向けた活動にどのように関わることができるかについて提案する。
グローバリゼーションの時代を生き抜くためには、欧米ばかりに目を向けていてはいけない。21世紀はアジア太平洋の時代が到来する。とりわけ、中国の経済力が日本を抜き、10年以内に中国がアメリカを抜き、世界一の経済大国になると予測されている。その中国が経済成長を継続するためにアフリカの天然資源に焦点をあてた資源外交を重視している。つまり、グローバリゼーションの波に乗るためには、欧米、アジア太平洋、そしてアフリカの経験も重要なのである。

学生の長い休暇を活用し、アフリカを旅したり、国際NGOの活動などに参加して開発援助のボランティア等の経験を積みながらアフリカの貧困の現況を知ることも大切である。何故なら、若いうちにアフリカ等の途上国の貧困の実態を知ることは、将来のグローバリゼーションの活動、例えば多国籍企業や国際機関に勤務するのに役立つからである。

メディアが貧困の報道を行うことにより世界が紛争の根源である貧困への関心が高まり世界平和への一助となる。同じように、学生が将来の仕事としてメディアの活動に興味があるなら、欧米のみならずアフリカ等の途上国の経験が必要である。アフリカで生活した時、欧米の若者がNGOの活動に積極的に参加していた。欧米の大学では、アフリカ等の途上国の経験が大学の単位にも適用され、また就職にも有利になると聞いている。日本の学生も国際NGOを通じアフリカ等の途上国でのボランティア活動やインターンシップに積極的に参加することが望ましいと考える。

世界は広く、日本は深い。日本にずっと居れば世界の広さも、日本の深さも実感することは不可能である。世界の広さとは、先進国のみならず途上国の幅広い世界を意味する。学生の豊かな感性が満ち溢れた時代に、アフリカの貧困の現状を短期間でも観察することにより、グローバリゼーションの動向を多角的視点で見ることが可能となる。

グローバリゼーションとは、イノベーションの進展で全てが便利になり、国境が低くなり世界がフラット化すると多くの人々は考えている。しかし、同時にアフリカ等の貧困の現況を理解し、貧困に直面しているアフリカ人の子供達の目線で世界の動向を見ることにより真のグローバリゼーションが理解できるのではないだろうか。先進国の視点と途上国の視点の両方の多角的視点でメディアに接することが重要である。グローバリゼーションの進展の中で、多角的視点を持って日本の座標軸と学生の皆さんの座標軸を明確にすることが肝要である。

まとめ

世界をこの眼で観ながら、アフリカやアジアの貧困のみならず、ヨーロッパやアメリカの先進国の貧困の現状にも接する機会に恵まれた。貧困には国境がない。でも、日本の視点で観たアフリカの貧困は、日本の常識では簡単に計り知ることはできない。

アフリカで4年間生活し、国連の開発援助の仕事を通じアフリカの現地の視点でアフリカの貧困を観察した。先進国でいうお金が貧困の対象になるとの考えにも違和感を覚える。何故なら、所得が低くともアフリカの奥地には、トロピカルフルーツなど農産物が豊富なのである。

また、雨が降らないから土地が枯れ果て飢餓に直面するアフリカもある。メディアが真の貧困を伝えるから、先進国が道義的理由で食糧支援や経済支援を行うのである。イギリスのBBCやアメリカのVOAは、アフリカのニュースをタイムリーに報道している。しかし、北朝鮮のような国家統制が強い国の報道は制約されている。国の検閲を通じ世界に伝えられた報道には、意図的なものがある。限定的な報道では、発信する人の見方で、報道が歪められることがある。

紛争の一因に貧富の格差や貧困がある。開発援助や経済支援を通じ、貧困を緩和することができる。国連もミレニアム宣言を通じ貧困問題に挑戦している。メディアが途上国の貧困を報道するから世界の関心が高まり、ひいては、世界平和につながるのである。

メディアが貧困の現状をつぶさに報道できるのは、現地のスタッフのみならず現場で開発援助の活動に従事するNGOや政府、国連機関のスタッフの現場の眼があるからである。アフリカやアジアの途上国で、開発援助の仕事やボランティア活動に従事することにより、貧困の現状を知り、その生きた情報を内外に伝えることができるのである。

貧困とメディア、貧困の現状を伝えるメディアがあるからこそ予防外交としての世界平和が構築できるのである。戦場カメラマンとは言わないまでも、貧困の現状を多角的視点で報道することは非常に重要である。

1月 08

平成を迎え23年目。平成生まれの大学生が社会に出て活躍する時代である。しかし、昭和の晩年に比べ就職難であり、学生のみならず日本社会に元気がない。何故、平成に入り、右肩下がりに経済が悪化し、世界の中の日本の地位が低下していくのか。日米関係にどのような変革が起こり、元気な東アジア経済の中で日本だけが取り残されていくのか。新年最初のコラムで考察してみたい。

昭和から平成に変わった時、米国は冷戦に勝利した。社会主義陣営という敵を失ったのである。昭和末期の日本は、バブルの絶頂期で、経済の黄金期を謳歌しながら冷戦の勝利のために疲弊していた米国の土地や建物を容赦なく買い漁っていた。当然のことながら、次第に太平洋を挟み、貿易摩擦が深刻化して行ったのである。

つまり、ベルリンの壁が崩壊した時点で、日本は経済という熱戦において米国の一番の敵になってしまったのである。太平洋戦争で敗戦した日本が奇跡的な経済復興と経済発展をなし得たのは、勤勉な日本人気質に加え、米国の共産主義封じ込め政策という外的要因の産物なのである。戦争で勝利したはずの周辺諸国が朝鮮戦争の犠牲となっている中、日本は戦争の特需のお陰でアジアの中で、ずば抜けた経済成長を成し遂げたのである。

戦後からベルリンの壁が崩壊するまで、米国の共産主義封じ込め政策という傘の下で日本は戦略を持たず安全保障も外交も経済政策も米国に従順であることでほとんど全てがうまく行ったのである。同時に経済発展を成し遂げる日本に対し、この間、中国や韓国をはじめ東アジア諸国は、嫉妬という反日感情が彷彿されたのである。日本は政府開発援助等を通じ、物質的な協力を行ったが、東アジア諸国に於いては歴史的な清算が行われたいう認識はされてないようである。

平成に入り政治も経済もやることなすこと全てが裏目に出るのは、経済面に於いて米国が日本を脅威とみなしたからではないだろうか。そして、東アジアの経済発展の中で、日本だけが異質なのは、周辺諸国が米国一辺倒の日本の政策、並びに歴史的清算が精神面も含め完結しない日本への批判が根強く残っているからではないだろうか。

一昔前まで、メードインジャパンは、最先端技術の象徴であった。しかし、今や、携帯や電子書籍という生活に直結した技術革新がアップルやサムソンという舶来が主流となっている。80年代初頭にソニーのウォークマンが世界に衝撃を与えたように、本来ならスマートフォンの分野でも日本が現在のアップルやサムソンの役割を演じるはずであったのに、どうして米国や韓国企業に先を越されてしまったのか。また、2009年度の韓国のサムソン一社の経常利益が日本の家電メーカー9社を超えたとの信じられない事態に陥ったのであろうか。

韓国企業の躍進は、1997年の東アジア経済危機を境に始まっている。香港が中国に返還された翌日にタイのバーツに異変が発生。東アジア経済危機は、ノーベル賞を受賞したクルーグマン教授が予測したように海外からの金融資金の投資が中心となりイノベーションが欠如する東南アジアの経済構造に問題があった。東アジア経済危機は韓国まで飛び火し、IMFの構造調整によって強硬に米国が主導する市場経済化が推進されたのである。それを決起に韓国経済は蘇ったのである。

中国経済が順調に経済成長を少なくとも5年継続し、人民元が切り上げされ米国経済の不振が続けば、5-10年で中国が米国を経済力で陵駕すると予測される。米国は東アジア経済危機で韓国を操ったようの韓国企業を通じ中国市場に浸透するように考えられる。

平成生まれの日本人が社会に進出する今、経済という熱戦において日本の進路を日米、日中韓、日米中の国際関係に於いて、日本の明確な戦略を構築しなければいけない。その前提として少なくとも近代史を読み解く必要がある。そして、アジアの一員として、日本が本来追及すべきアジアの王道としての資本主義でも社会主義でもなく両者の魅力を生かした共生の経済発展を導く知恵が求められている。

12月 29

ブッシュ大統領が、イラク、イラン、北朝鮮を「悪の枢軸」としてならず者国家のレッテルを貼り10年近くの時が流れた。
その間、イラクへは、大量破壊兵器の保有を口実に先制攻撃を行い、米国は大失策を演じた。
イランに対しては、イラク問題が影響し、袋小路に入ったままである。
北朝鮮に関しては、米国の一連の外交・安全保障の失策を梃子に瀬戸際外交に拍車をかける結果となっている。

北東アジアは、朝鮮半島の38度線を境に勢力均衡型の安全保障により紛争が抑止されてきた。
しかし、米国の影響力の低下と中国の経済力、軍事力の著しい上昇により勢力均衡が崩れ、
不確実性要因が高まっている。そのような国際情勢の変化を如実に示すかの如く、
北朝鮮は韓国の軍事演習を口実に1953年の一時的停戦協定以来、はじめての地上への砲撃を行い、韓国は砲撃で応戦したのである。

この非常時において、ニューヨークタイムズやワシントンポストの紙面で、
東アジアの専門家は、多角的視点で北朝鮮の暴走について論じている。
北朝鮮に対し最もソフトなアプローチは、米朝の直接対話と交渉により、米朝の不可侵条約を結ぶ事により、
北朝鮮の核開発や瀬戸際外交に歯止めをかけることができるという論調がある。
加えて、北朝鮮は貿易や投資といった経済活動を通じて富国を目指しており、国際社会は、
北朝鮮の市場経済化に向けた活動を支援することにより紛争を回避出来るという考え方がある。
北朝鮮という国家を性善説により考察した場合、このような経済協力を主眼としたソフトなシナリオが成立する。

また、北朝鮮を性悪説の視点で見れば、例えば、1994年の金日成から金正日の権力移行期の核開発の予兆期に軍事介入を
すべきであったし、生ぬるい交渉は北朝鮮に核開発の時間的余裕を与えることになるからハードパワーが不可欠だという結論になる。

全面戦争に発展する可能性は低いが、ワーストケースシナリオも想定した、戦争を回避するための幅広い戦略的ビジョンが求められる。
今まで繰り返し国際社会は北朝鮮へ経済支援を行ってきた。飢餓に直面する北朝鮮への緊急支援は人道の見地から当然だろうが、
北朝鮮の挑発行為がエスカレートするので、融和政策の修正が試みられている。

何故、北朝鮮は、軍事的挑発行為を本格化させてきたのであろうか。
第一に、南北間の経済格差を考慮すると北朝鮮が瀬戸際外交や軍事的挑発行為を継続しても、
韓国と比べ損失が少なく、いずれは韓国が妥協し、統一へのステップとしての同盟が成立するという見方。
第二に、北朝鮮にエネルギーや食糧支援を行っている中国にとって有利となる戦略を北朝鮮は行っている。
中国が懸念する米韓軍事演習や日米軍事演習を牽制する意味で、北朝鮮が中国の代理としての機能を果たしている。
第三に、政権移行期における脆弱を払拭する意味で軍事国家としての国家の形を内外に示した。
第四に、米国の歴代大統領が北朝鮮と本格的な交渉をしてこなかったことへの苛立ちがある。
例えば、ブッシュ1大統領は、Modest proposal (控えめな提案),クリントン大統領は、
Agreed framework(枠組み合意),ブッシュ2大統領は、Six party joint statement (六者合同声明),
オバマ大統領は、Strategic patience(戦略的忍耐)を行ってきた。
慨して、これらは、現状維持のための政策ではないだろうか。

北朝鮮問題が解決されない根本は、米中が現状維持を傍観してきたからではないだろうか。
また、中露も含む国際社会の北朝鮮への支援の目的は、北朝鮮の体制を変えることにあるからではないだろうか。
つまり、核兵器を保有した北朝鮮を交渉の舞台に導くためには、六者会合を通じ、
金体制の存続を認める意思を示すことが必要だと考えられる。
少なくとも戦争を回避し、来る本格的なアジア太平洋時代の到来を加速させるためには、
ブラックホールである北朝鮮を開発のラストフロンティアに変貌させるビジョン、
つまり、軍事的挑発を払拭させる大規模な経済協力が求められている。

11月 07

2012年は、世界の主要国のトップが同時に交代する年である。
中国では、習近平国家副主席が最高主導者の地位を固め、ロシアでは、
プーチン首相が再度、大統領に就任し長期政権を確立する可能生が高いと考えられている。

米国の中間選挙の結果が示すように2年後の大統領選においては、
共和党が優位な状勢が予測できる。日本においても米国と同様に、
チェンジや政権交代のフレッシュな民主党のイメージが消えあせている。
米中日露のアジア・太平洋の4大国のリーダーに関しては、
冷戦時代の社会主義陣営である中露が安定し、日米が不安定な政情になると考察される。

オバマ旋風以来、日米の政治が妙に連動ているようである。
日米ともに民主党政権であり、経済状勢が悪化する中、国民は福祉国家という大きな政府を選択したが、
その期待を裏切るかの如く、日々の生活の礎が揺らぎはじめている。
それでいて、日本には米国の共和党のような小さな政府、減税、そして保守的な価値観を示す政党がない。
ということは、米国に否応なしに追随する日本においても2大政党が本格化する可能性も高まるのではないだろうか。

戦後の米国の民主党、共和党の政権交代を展望すると興味深い傾向が見えてくる。
戦後、大統領選が16回行われた。民主党が7回、共和党が9回勝利した。
その間、2期8年間の大統領の最長任期を全うしたのが民主党ではクリントン大統領だけであるのに対し、
共和党は、アイゼンハワー大統領、ニクソン大統領、レーガン大統領、ブッシュ大統領と長期政権を行ってきた。

日本においては、自民一党支配の反動から民主党が政権を担ったが
その継続性は不確実である。問題は、政権が揺らいでいる時に、
中露のように政治的に安定している国家が、尖閣諸島問題や北方領土問題を軍事力、
外交術を駆使して日本を翻弄させる戦略に出たときにどうのように対処するかである。

2012年は、国際情勢の分岐点である。ベルリンの壁崩壊、911同時多発テロ、
リーマンショックとイデオロギー、国際テロ、宗教対立、国際金融の分野でパラダイムが大きくシフトした。
これらの複雑な問題を解くキーとなってきたのが、何といっても多国間外交であった。
米国の覇権主義によるイラクへの先制攻撃が失敗したように、
予測可能な中国の覇権主義にも限界があるだろう。

世界の潮流を鑑みると、日本の課題は、多国間協力の現場で実績をあげることである。
今月は、京都でAPECの財相会議、横浜でAPECの首脳会議が開催される。
その多角間外交の舞台と並行し、米中露等の首脳会談も行われる。
今月は、日本にとって外交ラッシュであり、円高、領土問題 等の問題に取り組む好機である。
このような多国間外交の分野でヒットやホームランを放つことでこの20年程、
日本を覆っている閉塞感を払拭することも可能となろう。

多国間外交の舞台で重要なのは、日本の存在感を示すことであり、
グローバル社会における日本の地球規模の貢献を明確に示すことである。
本質的には、多国間外交の場において発生する首脳会談にて、
タイムリーな問題を両国の共通の利益の合致点を見出し信頼醸成を構築することである。
2012年に向け、中国やロシアは安定感のあるリーダーを生み出そうとしている。
従って、日本の首脳に必要なのは多国間外交や多国間協力を通じ、
喫緊の領土問題や円高等の国際経済を解決する見識と実行力であろう。

10月 17

日中間には戦略的互恵が存在し,両国のwin-winが導かれるための外交手腕が期待されている。
しかし、戦略的な対立が日中関係の溝を深化させているのが現実である。
中国船が日本の領域を侵害したので、日本は、国内法に則りその船の船員を拘束した。
当然のことながら、原因と結果があるように、中国船員を拘束することから発生するであろう
問題を予測できたはずである。

ワシントンのシンクタンクで習得したことは、平和のためのシナリオを描くことと、
最悪、最善、落とし所など、多角的なシミュレーションを想定することであった。
今回の尖閣諸島問題は、中国が挑発したものの日本が拘束という口火をきった。
碁でいうと日本が先手を切ったのである。
民主党のリーダー選出に伴う、外交の空白があったかもしれないが、
少なくとも安全保障に関わる分野においては、尖閣諸島問題に対応する国家戦略の
シュミレーションが描かれていることを信じたい。
日清戦争以来の領土問題のとげが生み出した日中関係の本質的な解決策はあるのであろうか。

中国漁船を拘束、軍事管理区域に侵入したとして日本人4人が拘束、
ハイテク製品に不可欠なレアアースの対日輸出禁止、中国人船長を処分保留のまま釈放、
拘束された日本人の3人が釈放。
この様な駆け引きが続くなか、日中を取り巻く国際環境の変化は、
日米安全保障条約と沖縄の基地問題の重要性の認識、対日領土問題を抱える中露の接近、
竹島問題を抱える韓国が領土問題で中国に接近、尖閣諸島の領土問題の歴史認識で台湾と中国が接近、
東南アジア諸国は、南沙諸島問題で中国の強硬な姿勢が予測できることから日本に接近。

日本国内に於いては、中国脅威論が高まると同時に、国防体制を根本的に考える機会とし、
日本の安全保障を一層米国に依存する必要性があるとの考えと同時に、
独自の国防体制を強化させるという考えが交錯している。
政党を超え、安全保障問題で保守とリベラルの対立軸が明確になりつつあり、政治の分裂が深刻化している。
一方、中国に於いては、日本との領土問題をクローズアップする程に、
中国国内の結束が高まるという日本とは逆の方向に向かっている。

世界2位と3位の経済大国が領有権の問題で対立することで、漁夫の利を得るのは、
東アジア市場のシェアを伸ばそうとする欧米ではないだろうか。
加えて、日中間の緊張が高まることで米国の基幹産業である軍需産業が活性化されるのではないだろうか。

21世紀はアジア太平洋の時代であり、とりわけ世界は中国を注視している。
中国のパワーが上昇し、日本のパワーが下降している。
恐らく近代で中国が最も優位な位置にあるのが今日の日中関係ではないだろうか。
従って、欧米の対アジア戦略を解読し、アジアの中の日本、世界の中の日本を客観的に展望し、
日中のwin-winを創造しなければいけない。

短期的には、日米の絆をより強固にし、中長期的には中国の拡張政策を抑止する
日本独自の世界が賞賛する安全保障を描く必要がある。
その骨格は、国家と地球を同時に守るという新しい安全保障である。
日本列島周辺に地震ベルト地帯が集中している。
将来、必ず大地震が発生する。自然災害が発生した時に、早急に出動できる救助隊(リスキュー隊)があれば、
大地震の被害を最小限に食い止めることが可能となる。

例えば沖縄にその救助隊を置く。それは、世界で自然災害が発生した時に、
出動できる救助隊とし、その救助隊は多国籍で構成する。
具体的には、2025年を目処に米軍の沖縄撤退を目指すと同時に、
世界のコンセンサスを得て、国連の機関として地球リスキュー隊を創設する。
その部隊は、発生するであろう日本の大地震を救済すると同時に、
中国や世界で発生する自然災害にも貢献する。

核兵器の廃絶が提唱され、従来の国家を軍事力で守るという考え方にも変化が観られる。
国家間の領土問題解決には、どの国も共通する地球規模の自然災害に地球益としての
戦略的互恵を築くことが求められているのではないだろうか。
とどのつまりは、国家を守るためには、軍事力が必要であるが、その軍事力が
自国を守ると同時に世界を守るというパラダイムのシフトが肝要なのである。
これが欧米の安全保障ではなく、日本的な世界で通用する安全保障になることを期待したい。

9月 11

異常な猛暑が続く中、政治も経済も社会も地球環境の異常に連動しているようだ。
世界を見回してみても、とりわけ、円高や不確実性の高い政情など日本の異常が突出している。
この異常を乗り越えるビジョンや戦略思考が今の日本に存在しているのだろうか。
シンクタンク的な思考では、「平和や安定や発展は、取るべきなり」である。
受身的な考え方では、加速度的に進展する国際情勢の変化に乗り遅れてしまう。
一昔前は、Japan as number one と世界から注目さていたのに、
今の日本は、経済力で中国に抜かれJapan as number threeになったどころか、
日本の総合力が急速に萎縮している。
そこで、現代の日本を「世界の中の日本」として多角的視点で考察してみたい。

経済に関しては、異常な円高の影響で、輸出依存型企業の業績
が悪化の一途をたどっている。
天然資源に恵まれぬ日本にとって輸出産業は日本の経済の柱である。
財政赤字に加え、イノベーションの低迷により日本企業の国際競争力が
低迷しているにもかかわらづ、円高が進行している。
世界経済の分野で熱戦が繰り広げられているとすると、
日本の経済戦略の不在が敗走へと導いているようである。

では、円高を抑止する現実的な施策として為替介入があるが、
そのような既存の小手先の行動では、本質的な是正につながらない。
そこで、異常な円高のメリットを活用して、海外の資産を戦略的に買収することが、
円高の抑制に直結すると考えられる。
一部の優良企業は、水面下でこのような攻めの企業戦略を実践している。
つまり、円高のメリットとデメリットを戦略思考することで、
危機からの脱出と進展への潮流を生み出すことが可能となるのである。

次に話題の民主党内の分裂について考えてみたい。
民主党が政権を取りはや1年が経過した。その間、二大政党制や官僚機構
からの脱却など期待はされたものの現実的には、マニフェストに掲げられた
公約が守られず、国民の不信感が募り、政権後退が著しい。

そこで、いよいよ小沢前幹事長が20年以上かけ練ってきた政治の
大勝負の幕がきられたのである。この与党内の内紛劇が、吉と出るのか凶とでるのか。
ただ、小沢氏が勝利しない限り官僚機構が漁夫の利を得ることになろう。

世界から日本の政治を鳥瞰すれば、官僚と一枚岩となり一党独裁を続けた
自民党 も民を中心に据える民主党も首相が頻繁に交替する点で同じであり、
加えてビジョンや世界に通用する戦略が欠如していることからも
世界における日本の地位低下は自明の理であると映る。

20年以上、海外で暮らし、それなりに世界の中の日本を観てきた。
明らかに、日本人の本領を発揮し少しでも世界平和のために貢献できる
国際環境の局面はあったし、また必ずその好機は到来する。
換言すると、イラク戦争にみられたように一神教同士の争いや、
近い将来に起こるだろう東西文明の衝突を調停する日本の役割は、
日本人が考えている以上に期待されているように思われてならない。
そのような能力を龍馬伝に例えるなら、薩長同盟のように
調和を推進すると同時に実利的な行動力である。

日本という国家主権を考えれば、政治や経済の分野も芳しくなく不満が充満する。
ついつい実らぬ他力本願になりがちである。しかしながら、21世紀の今日、
国境の壁が低くなり、大多数の国において市民が自由に往来することが
可能となったことを鑑みると、地球市民やコスモポリタンとして
国益を超越した地球益のための行動として
日本人のそれぞれが持つ調和という能力を発揮できるように思われる。

世界の民族的なパワーを大きく観た場合、アメリカの背後に存在する
ユダヤのパワーと中国の興隆を支える華僑のパワーが世界の中軸に
影響を与えていると考えられる。願くば、このような異なる勢力を
調和させる戦略を日本或いは、地球市民としての日本人が描き実践されることを期待したい。