オバマ政権がスタートして100日が経過してもなお60%強の高い支持率を維持している。外交・安全保障の分野では、プラハでの核兵器廃絶の演説、バグダッド訪問に伴うイラク政策など具体的なオバマ色が鮮明に示され、また、経済の分野では、環境とイノベーションの融合が、産業構造の変化、雇用創出、経済成長をもたらすとの期待が高ま っている。
このように政治の安定に伴う金融危機からの脱却過程において、グローバル社会の中で相対的に日本の位置付けがどのように変化しているのか考察する必要がある。
金融危機の勃発から7ヶ月が経過し、中国経済がいち早く回復基調を示している。換言すると、米国発の金融危機で相対的に経済力を高めたのは、中国である。21世紀はアジア・太平洋の時代と云われる如く、経済パワーは、太平洋を渡りアジアへとシフトしている。今、日本の舵取りに不可欠な要素は、アジアの発展に適う日本の経済・外交政策の座標軸を明確にすることだと考えられる。
とりわけプラザ合意後の四半世紀に及ぶ日本の金融政策の述懐を一言で表現すると日本は余りにも米国の金融政策に翻弄されて来たと言えないだろうか。為替の協調介入、円高不況、低金利政策、ゼロ金利政策など一連の結果を大局的に展望すると、とどのつまりは、日本の世界一の個人金融資産をニューヨークの証 券市場に流れ込ませるという米国の金融資本主義の野心に他ならないと考えられる。
グローバル経済における日本の役割は重要であったかも知れないが、最も重要なことは、金融の規制緩和やビッグバンによって、一般の日本国民がどれ程の恩恵を受けることができたかである。明らかに米国主導の金融資本主義の恩恵に与かったのは一部の投資家や銀行である。
冷静に考えると1400兆円の個人金融資産を有する日本が、金利の恩恵を最大限に活用し、日本国民が利子の果実を享受することが出来なかったのは実におかしな話である。個人金融資産は日本人の勤勉がもたらした結果であり、仮に5%の金利がつけば毎年70兆円の利子をもたらすのである。日本の国家予算に匹敵するだけのお金である。
本来の銀行の役割は、地域経済の資金の循環に寄与することにある。お金のある人は、銀行に預金し妥当な利子を受け、お金が必要な人は、銀行からお金を借り入れ利子を支払うという単純な構造こそ銀行の使命である。しかし、ゼロ金利政策により株式の投資が蔓延し、しかも少しのお金で梃の原理の如く金融の博 打がバーチャルなコンピューターを通じ行われたところに問題がある。
サブプライムローンの発端は、米国の貪欲な金融資本主義にあるが、結果的にそれを助長したのが日本のゼロ金利政策でもある。勿論、無防備な日本の金融政策は、米国の金融戦略のターゲットとなったと考えられるが、その米国がオバマ大統領の登場により、明らかに米国は、金融資本主義の反省に伴う、 中間層や弱者への教育や勤労の機会の増大を通じた米国の経済成長戦略にシフトしている。
オバマ政権が安定した支持率を維持している今、日本が米国に示す経済戦略は、日本の貯蓄が海外に流失することを規制し、教育や環境問題を含む国内の社会資本整備に重点がおかれ、銀行や投資家が海外の株式市場における博打的な投機を抑制することにある。単純に日本がうまくいっていた高度経済成長期の日本の 金融システムに戻し、一般の日本国民が恩恵を受けることができる経済戦略を明確に示すことが希求されている。