8月 06
 歴史上、世界から孤立した軍事国家の独裁者一人の意思で、核のボタンを押すことができる状況が存在したであろうか。金正一総書記の健康が急激に悪化し、精神状態も正常でない状況に直面した時、どのような予防防衛が行われるのか。ワシントンのシンクタンクでは、レッドライン、即ち北朝鮮がミサイルに核兵器を搭載したとき、予防防衛として米国による先制攻撃が行われる可能もがあるとの議論もなされている。
 
  昨今の北朝鮮による挑発的な核実験とミサイル発射の行為を冷静に判断すると、抑止力不在から、核攻撃の最大の危機が差し迫っていると言っても過言でない。このような危機に直面したとき、日本のメディアは、真実から目を逸らし、戦略的思考を伝えず、他力本願の安全保障に依存するとの特徴があるように思われる。
 
 北朝鮮を取り巻く国際情勢が、いくつかの負の力学により動かされている。例えば、韓国においては、太陽政策を推進した大統領が自殺した2日後に北朝鮮が核実験を行ったことで、北に対する怨念が深まっている。また、リーマンショックで、相対的に経済力を高めた中国に対する欧米のジェラシーとして、極東における局地紛争は、中国の力を削ぐためにはマイナス要因でない。数ヵ月後に実施される日本の衆議院選挙により、安全保障論議がタブー視されることから、日本における安全保障や外交が真空状態になる。米国の基幹産業の中枢であるGMの破産等、オバマ大統領は、米国内の経済を優先することから、北朝鮮への安全保障の対応が懸念される。米軍の核の傘の下で、攻撃的戦略に守られるという日米の矛と盾の役割分担が機能するのか不安材料が増す。
 
 朝鮮半島の38度線における、勢力均衡において北朝鮮の挑発行為に対し、日・韓・米が具体的な行動と結果を示さなければ、中国とロシアの勢力が増す。逆に、北朝鮮の核を抑止する意味から、日本が米国依存型の他力本願の安全保障から、核保有を含む自力本願の安全保障に変化することを中ロが懸念する。恐らく、中ロが北朝鮮の暴走を抑止する行動に出る。
 
 北朝鮮を抑止する戦略として、経済・文化協力を推進するソフトランディング、軍事力によるハードランディング、そしてその両方をミックスさせたスマートパワーによる戦略、そして現状維持を貫くステータスクオの4つが考えられる。ソフトランディングは、韓国が推進した太陽政策の失敗からナイーブだと考えられる。また、ハードランディングでは、危険すぎる。そこで、スマートパワーを具現化するために、国連常任理事国プラス、国連の事務総長を抱える韓国そして日本が中心となり、北朝鮮の核とミサイルを抑止する先制攻撃を含む予防防衛の脅しを示しながら、北東アジア全域を巻き込んだ大規模な社会資本整備を推進するグランドデザインが希求される。
 
 北朝鮮の暴走を抑止する戦略として米国による軍事的抑止力を強化すると同時に、日本と韓国が中心となり北朝鮮周辺を中心とする北東アジアに、日中韓の資金力と、日米韓の技術力、中国の労働力、ロシアの天然資源を相互補完的に共生させWin-Winの協調的安全保障を実現させる。北朝鮮の瀬戸際外交に対抗し、各国の足並みが揃わぬ経済制裁を行っても進展は期待できない。そこで、予測できる紛争後の復興支援と同規模の社会資本整備を予防外交の一環として北朝鮮と協議を重ね遂行することで自力本願による安全保障が可能となると考察する。(世相7月号掲載)

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