3月 19
今年のサミットは、地球環境問題などを主題に北海道で開催される。北海道の広大で大自然に恵まれた地で世界の首脳が国益を超越して世界の安定と繁栄について語るのは有意義なことである。現在の日本が置かれている事象を鳥瞰すれば、地球環境の技術革新における世界トップの地位、食料自給率の低さ、北方領土問題な どが浮かび、これらはとりわけ北海道の地に関連している。
環境・エネルギー・食糧の実利的な戦略
今、サミットで求められることは、地球環境、エネルギー、食糧の問題を包括的に解決する知恵を協調的に絞りだすことである。人口の急激な増加、化石燃料の需要緊迫、BRICs等の急成長などが起因し、予測を遥かに超える速度で人類の存続に関わる問題がクローズアップされようとしている。化石燃料の代替として、 環境に比較的やさしいコーンやサトウキビを燃料とするエタノールが米国やブラジルに浸透しているが、これらは穀物の高騰を引き起こしている。
地球温暖化並びに工業化・都市化の影響で、最も懸念されるのが水と食糧の問題である。お米などの穀物を主とするアジアの人口増や稲作の耕地面積の縮小により、穀物市場の急騰が予測されている。確実に農業や漁業の一次産業の重要性が高まっている。北海道こそ日本並びに近隣諸国の食糧の安全保障に寄与する潜在性を 持っている。その意味でも、サミットで環境、エネルギー、食糧の包括的かつ実利的な戦略が議論されることが期待される。
安全保障の根源
また、サミットのホスト国として明確な安全保障の視点も重要である。国務省の友人を通じ、太平洋戦争で駆逐艦の艦長として戦われた左近充氏と会った。生々しい戦争体験を左近充氏から聞くと同時に原爆の標的委員会で話し合われた内容を聞き、驚いた。米国が原爆を投下するにあたり、標的委員会は、広島、長崎、新潟、小倉、京都の5都市を選定した。何回かの会合を経て、最終決定されたのが京都であった。その判断は、ソビエトによる日本の領土と りわけ北海道占領を回避し、米軍の地上部隊の犠牲を避けるために、一発で日本の戦意を挫く作戦として、日本の文化の要を成す京都が標的になったのである。
しかし、この最終決定を覆したのが当時の陸軍長官であった80才近くのスティムソン長官と開戦時の駐日大使の親日派のグレー大使であった。この二人は、日本文化の造詣が深く、特に京都に詳しかったと言われている。かけがえのない日本の文化・芸術を守るために二人は、トルーマン大統領に会い、京都への原爆投下を回避するように執拗に談判した。このことは、同志社大学のケリ ー教授も述べておられる。これはあくまで想像であるが、京都を守ろうとしたスティムソンとグレーは、京都の文化のみならず例えば芸者さんや舞妓さんとも親密な関係があったように思われる。
人間の安全保障という表現があるが、とどのつまりは安全保障の根源を成すものは人と人との直接の会話と人間関係を通じた尊敬にあるのではないだろうか。従って、今年のG8サミットでは、儀礼的な話し合いはさておき、本質的な人間関係の構築が期待される。特に京都で開催される外相会議においては、祇園や先斗町の 文化交流も重要となろう。
月刊「世相」2008年6月号に掲載