3月 19
団塊の世代にとってノスタルジーを彷彿させるキューバ革命の英雄ゲバラの思想と行動が、何故か現代の世相に新鮮に映る。ゲバラのお嬢さんが来日され、主要都市で講演されたことも影響しているようだ。タイミングよく中公文庫から筆者が解説をした「ゲバラ世界を語る」が出版された。そして京都にてゲバラのお 嬢さんと直接話をする機会に恵まれた。
今回の地球眺望でゲバラを語りたいのは、竹村健一先生が40年前に雑誌でゲバラを連載され、本を出版されたことを直接聞いたからだ。ゲバラは社会主義のイメージがあるにも関わらずアメリカ帰りの若き竹村先生がゲバラに注目されたのは実に興味深い。
加えて、冷戦構造が崩壊し勝利したはずの資本主義が下降し、負けたはずのロシアが大きく躍進し、社会主義と市場経済をブレンドさせた中国やインドが世界の原動力となっているからである。ゲバラをワシントンで調べているうちに、冷戦中の最も危機的状況であったキューバミサイル危機が、回避されたのは、ゲバラが秘密裏に広島を訪問したことと無関係でないようである。
キューバのゲバラセンターの所長であるゲバラのお嬢さん曰く、ゲバラが広島から絵葉書を子供あてに送り、原子力爆弾の脅威を認知し、それを回避する戦いを行うために広島に訪問すべきだというメッセージを送った。工業大臣としてゲバラは来日し、トヨタを訪れ日本の技術力に興味を持ったが、最も重要なことは、ゲ バラが日本政府が認めなかった広島訪問をゲバラの強い意思で行ったことである。そして、数年後にキューバミサイル危機が勃発し、フリシチョフとケネディとの一発即発の狭間の中で、キューバを舞台に、カストロとゲバラという主役が核戦争回避のために何らかの行動を起こしたことである。
具体的な行動は解明されてないが、30%の確率で核戦争が勃発すると観測された状況でそれが予防された結果からして、ゲバラの広島訪問は世界平和のために大きく貢献したと言っても過言でない。その事からも、世界の首脳が広島を訪問することで核戦争回避に役立つと考えられる。そこに広島の世界平和のための重要 な役割があろう。
資本主義を否定したゲバラは半世紀前から社会主義の限界を予測していたという。とどのつまり、ゲバラが探求したことは、国家であれ企業であれ、大衆を無視して、官僚的に、また市場経済の過当な競争における強圧的な政策に命をかけて戦ったことにある。国家単位の社会主義でもなく、拝金主義の資本主義でもなく、庶 民が豊かに暮らせる社会を理想としたのがゲバラの思想である。換言すると、ゲバラが理想としたのは、人間の本能である芸術や文化を自由に表現できる社会の創造である。
21世紀の今日も、宗主国が植民地政策を通じ第三国の発展を阻害したように多国籍企業の搾取が継続している。グローバリゼーションは、世界を豊かにすると同時に貧富の格差を拡大させる光と影が同居している。また、アメリカ、EU,東アジアと世界の三極構造が次第に確立されている。このような国際情勢の変遷の中で、最も重要なことは、人々が仕事のみならず芸術などを通じ豊かな生活を享受できるかである。ゲバラのお嬢さんが、日本の経済成長に貢献した高齢者の医療負担を増加させる日本社会の歪さを指摘したことは、実に印象 的であった。
月刊「世相」2008年7月号に掲載