3月 19
ルイヴィトンの新作のバックが京都の上賀茂神社の空間を背景に紹介されているのを某雑誌で見た。パリのファッションの旋律が京の神社の自然の静寂に浸みわたるこの企画を行ったのは、フランス人が日本人が知らないが、粋な演出である。
 
先日、同じく京都の下鴨神社で、「にっぽんと遊ぼう」という京の粋を楽しむ催しが行われた。神社の自然の緑に包まれた暗闇の空間にかなでられるピアノの調べは、悠久の時を超えて古のロマンが、華やかにそして厳かに奏でられた。内外のセレブ400人が京の味とともに極上のシャンペンを楽しむ空間が京都の神社 にマッチしていた。
 
西洋と東洋の文化の頂点を織りなすパリと京都。東西の文化を抱擁し、シンクロナイズさせるパワーが京の神社には宿っていると感ぜずにいられない。
 
また、京都に何十年も住む外国人が臨済宗の総本山である京都の妙心寺にて、秋の夜長の京都を満喫する催しを企画した。日本の伝統を研究し精通している外国人が選んだ催しは、紙芝居と尺八。禅の枯山水の庭に響く繊細で激しい尺八の音色は、あまりにも美しかった。
 
京都の神社とお寺で奏でられるピアノと尺八は、パリやウィーンのオペラやコンサートに匹敵するだけの文化度を秘めていると考えられる。古より脈々と流れる京都の神社仏閣のありのままの空間を応用させることにより、西洋と東洋をシンクロナイズさせることが可能となろう。西洋もどきの箱ものに莫大な出費をしな くても、歴史と文化と自然の空間を織りなすことにより、世界を驚かすに値する日本のソフトパワーを発揮することができる。
 
 西洋は東洋に憧れ、東洋は西洋に憧れるものである。そこに交流や調和が生まれる。また、異なった要素は、時には政治や経済の争いが転じ戦争へと導く。現在の世相を観察すると、核戦争の恐怖心から人類滅亡を回避する戦争への抑止力が機能し、むしろ世界の万民が共有できる地球環境問題など地球益の大切さが観 えてくる。
 
 地球を観ることが大切である。夜空を仰げば月や星は照り輝いているが、地球のあるべき姿を自然の空間で展望することは、宇宙船で観る他はない。しかし、京都造形芸術大学の竹村真一先生が開発された「触れる地球」なら、実際の地球の1千万分の1というサイズで、生きた地球の姿をリアルタイムで体感できるのである。
 
 我々の遠い遠い先祖であるDNAは、きっと宇宙という空間を彷徨いながら地球という宇宙に浮かぶ1個の球(グローブ)を認識したに違いない。人類はロケットが発明されるまで地球を観ることができなかった。しかし、現代の科学は、人類が宇宙船で宇宙を旅し、宇宙を遊泳することを可能にした。
 
 宇宙からリアルタイムで送られてくる映像を「触れる地球」を通じて、真っ暗な静寂に包まれた京都の神社や禅宗のお寺の空間で味わってみるのも粋である。京都には西洋の文化を抱擁し、西洋の人々を酔わせる風情と空間がある。その神社やお寺の空間を応用し、東西の文化を調和させるのみならず、宇宙遊泳を想像 しながら地球のダイナミズムを地球人として体感することは、実に神秘的であり、科学的である。
 
 21世紀の今日まで人類が気がつかなかった地球への平和がそこから生みだされるように思う。全国竹村会でも講演された天下一品の木村勉社長が、上賀茂神社の空間で「触れる地球」を披露される日を楽しみにしている。まさにこれは、「地球を楽しむ」京都の粋な催しとなろう。
 月刊「世相」2008年12月号掲載

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