8月 06
 歴史上、世界から孤立した軍事国家の独裁者一人の意思で、核のボタンを押すことができる状況が存在したであろうか。金正一総書記の健康が急激に悪化し、精神状態も正常でない状況に直面した時、どのような予防防衛が行われるのか。ワシントンのシンクタンクでは、レッドライン、即ち北朝鮮がミサイルに核兵器を搭載したとき、予防防衛として米国による先制攻撃が行われる可能もがあるとの議論もなされている。
 
  昨今の北朝鮮による挑発的な核実験とミサイル発射の行為を冷静に判断すると、抑止力不在から、核攻撃の最大の危機が差し迫っていると言っても過言でない。このような危機に直面したとき、日本のメディアは、真実から目を逸らし、戦略的思考を伝えず、他力本願の安全保障に依存するとの特徴があるように思われる。
 
 北朝鮮を取り巻く国際情勢が、いくつかの負の力学により動かされている。例えば、韓国においては、太陽政策を推進した大統領が自殺した2日後に北朝鮮が核実験を行ったことで、北に対する怨念が深まっている。また、リーマンショックで、相対的に経済力を高めた中国に対する欧米のジェラシーとして、極東における局地紛争は、中国の力を削ぐためにはマイナス要因でない。数ヵ月後に実施される日本の衆議院選挙により、安全保障論議がタブー視されることから、日本における安全保障や外交が真空状態になる。米国の基幹産業の中枢であるGMの破産等、オバマ大統領は、米国内の経済を優先することから、北朝鮮への安全保障の対応が懸念される。米軍の核の傘の下で、攻撃的戦略に守られるという日米の矛と盾の役割分担が機能するのか不安材料が増す。
 
 朝鮮半島の38度線における、勢力均衡において北朝鮮の挑発行為に対し、日・韓・米が具体的な行動と結果を示さなければ、中国とロシアの勢力が増す。逆に、北朝鮮の核を抑止する意味から、日本が米国依存型の他力本願の安全保障から、核保有を含む自力本願の安全保障に変化することを中ロが懸念する。恐らく、中ロが北朝鮮の暴走を抑止する行動に出る。
 
 北朝鮮を抑止する戦略として、経済・文化協力を推進するソフトランディング、軍事力によるハードランディング、そしてその両方をミックスさせたスマートパワーによる戦略、そして現状維持を貫くステータスクオの4つが考えられる。ソフトランディングは、韓国が推進した太陽政策の失敗からナイーブだと考えられる。また、ハードランディングでは、危険すぎる。そこで、スマートパワーを具現化するために、国連常任理事国プラス、国連の事務総長を抱える韓国そして日本が中心となり、北朝鮮の核とミサイルを抑止する先制攻撃を含む予防防衛の脅しを示しながら、北東アジア全域を巻き込んだ大規模な社会資本整備を推進するグランドデザインが希求される。
 
 北朝鮮の暴走を抑止する戦略として米国による軍事的抑止力を強化すると同時に、日本と韓国が中心となり北朝鮮周辺を中心とする北東アジアに、日中韓の資金力と、日米韓の技術力、中国の労働力、ロシアの天然資源を相互補完的に共生させWin-Winの協調的安全保障を実現させる。北朝鮮の瀬戸際外交に対抗し、各国の足並みが揃わぬ経済制裁を行っても進展は期待できない。そこで、予測できる紛争後の復興支援と同規模の社会資本整備を予防外交の一環として北朝鮮と協議を重ね遂行することで自力本願による安全保障が可能となると考察する。(世相7月号掲載)
6月 29
 釈迦が「諸行無常」と伝えたように、世の中は、刻々と変化している。しかし、春夏秋冬があるように四季の移り変わりがあっても再び同じ四季が巡ってくる。 
 ジェット機で世界を旅することで、北半球の夏から南半球の冬へと時空を超えて移動することができ、国境を越え、異文化の交流を体感することできる。このように科学技術の進歩は、生活を豊にしてくれるが、一方、直観力など人類の本質的な素養を弱体化させることもある。
 便利な世の中であるからこそ、人類史上脈々と流れ伝わる「万物の根源」、即ち「哲学」を大観することが重要である。換言すると、現在進行形の国内外の諸問題や、世相を読み解き、世界の中の日本、過去・現在・未来の狭間の中の我々の座標軸を確かなものにするために、古代・中世・近代・現代の「哲学のエッセン ス」に通観する必要を感じる。
  大学卒業後、先進国・途上国を問わず世界のフィールドで平和構築のための活動に関わってきた。世界中の人々と接し、かけがえのない経験的直観力を育成することができた。世界のフィールドで帰納法的に養った経験を、先人の哲学的考察を演繹法的に融合させることにより、より明確なビジョンが創造されるように考 えられる。
 
ビジョンを描くための7つの哲学的戦略思考
1.多角的・重層的視点で世界の中の日本を展望
 ドゥルーズ(20世紀、フランス)は、遊牧民(ノマド)的思考として一元的・固定的な考えに陥ることを批判し、多角的・重層的視点で思考することの重要性を説いている。クローズアップとロングショットの両方の視点で、世の中の現象を把握することが大切である。 
2.弁証法で世相を展望
 国連やワシントンのシンクタンクで学んだことは、建設的な議論を通じ、ベストのシナリオを創造することであった。ヘーゲル(18−19世紀、ドイツ)の弁証法は、正論・反論・双方の長所をミックスさせた排他的でない議論の重要性を説いている。 
3.プラグマティズム(実用主義)
 ジェームス(19−20世紀、アメリカ)は、物事の真理を実際の経験の結果により判断するがプラグマティズムの戦略的思考の重要性を説いている。マキャベリ(15−16世紀、イタリア)は、理想と現実を握手させるためには、柔軟性のある多種多様な行動が必要であると述べている。 
4.予定調和説・性善説
 ライプニッツ(17−18世紀、ドイツ)は、予定調和説に則り、最終的には世界は最善の道を歩むと説いている。ビジョンを描くにあたり、「宇宙の目的」に従った、協調・共生への哲学が根底になければいけない。 
5.自然との共生
 スピノサ(16−17世紀、オランダ)は、自然界の万物に神を見出すという東洋的な見方を示している。この汎神論の見方は、現代社会における宗教・文明の対立構造を調和させるパワーを秘めている。老子(紀元前5−4世紀、中国)は、「上善水の如し」と人工的なものは悪で、自然の大切さを伝えている。 
6.本質を探究
 ベーコン(16−17世紀、イギリス)は、4つの先入観(主観、独断、伝聞、権威)を排除することで実用的知識を得ることができると説いている。また、ニューヨークタイムズの外交コラムニストのフリードマンは、発表された理由、現実的理由、道義的理由、本質的理由の4つからメディアの分析を行う必要があ ると述べている。 
7.異文化交流の推進
 モンテーニュ(16世紀、フランス)は、異文化に寛容に付き合うことと、自己の文化を相対化することの重要性を説いている。また、レヴィ=ストロース(20世紀、ベルギー)は、諸文化を単純に比較し、優劣をつける発想を否定する構造主義人類学を提唱している。
 
理想世界の創造
 京都に生まれ20年以上かけ世界で生活し京都に戻ってきた。地球を歩きながら人類が共有する地球益や共生の重要性を体感してきた。今、日本を座標軸に世界を展望し、哲学を通じた人類の知恵を大観することにより、近未来を単に予測するのでなく、自ら「理想世界」を創造する推進力が生み出されるのも不可能で ないと感じている。哲学を生きたものにするためには、世界を旅しながら異文化と接し、人類の共通の利益の合致点を見出し、それを実践することが不可欠であると考察する。
6月 05

オバマ政権がスタートして100日が経過してもなお60%強の高い支持率を維持している。外交・安全保障の分野では、プラハでの核兵器廃絶の演説、バグダッド訪問に伴うイラク政策など具体的なオバマ色が鮮明に示され、また、経済の分野では、環境とイノベーションの融合が、産業構造の変化、雇用創出、経済成長をもたらすとの期待が高ま っている。

このように政治の安定に伴う金融危機からの脱却過程において、グローバル社会の中で相対的に日本の位置付けがどのように変化しているのか考察する必要がある。

 金融危機の勃発から7ヶ月が経過し、中国経済がいち早く回復基調を示している。換言すると、米国発の金融危機で相対的に経済力を高めたのは、中国である。21世紀はアジア・太平洋の時代と云われる如く、経済パワーは、太平洋を渡りアジアへとシフトしている。今、日本の舵取りに不可欠な要素は、アジアの発展に適う日本の経済・外交政策の座標軸を明確にすることだと考えられる。

 とりわけプラザ合意後の四半世紀に及ぶ日本の金融政策の述懐を一言で表現すると日本は余りにも米国の金融政策に翻弄されて来たと言えないだろうか。為替の協調介入、円高不況、低金利政策、ゼロ金利政策など一連の結果を大局的に展望すると、とどのつまりは、日本の世界一の個人金融資産をニューヨークの証 券市場に流れ込ませるという米国の金融資本主義の野心に他ならないと考えられる。

 グローバル経済における日本の役割は重要であったかも知れないが、最も重要なことは、金融の規制緩和やビッグバンによって、一般の日本国民がどれ程の恩恵を受けることができたかである。明らかに米国主導の金融資本主義の恩恵に与かったのは一部の投資家や銀行である。

 冷静に考えると1400兆円の個人金融資産を有する日本が、金利の恩恵を最大限に活用し、日本国民が利子の果実を享受することが出来なかったのは実におかしな話である。個人金融資産は日本人の勤勉がもたらした結果であり、仮に5%の金利がつけば毎年70兆円の利子をもたらすのである。日本の国家予算に匹敵するだけのお金である。

 本来の銀行の役割は、地域経済の資金の循環に寄与することにある。お金のある人は、銀行に預金し妥当な利子を受け、お金が必要な人は、銀行からお金を借り入れ利子を支払うという単純な構造こそ銀行の使命である。しかし、ゼロ金利政策により株式の投資が蔓延し、しかも少しのお金で梃の原理の如く金融の博 打がバーチャルなコンピューターを通じ行われたところに問題がある。

 サブプライムローンの発端は、米国の貪欲な金融資本主義にあるが、結果的にそれを助長したのが日本のゼロ金利政策でもある。勿論、無防備な日本の金融政策は、米国の金融戦略のターゲットとなったと考えられるが、その米国がオバマ大統領の登場により、明らかに米国は、金融資本主義の反省に伴う、 中間層や弱者への教育や勤労の機会の増大を通じた米国の経済成長戦略にシフトしている。

 オバマ政権が安定した支持率を維持している今、日本が米国に示す経済戦略は、日本の貯蓄が海外に流失することを規制し、教育や環境問題を含む国内の社会資本整備に重点がおかれ、銀行や投資家が海外の株式市場における博打的な投機を抑制することにある。単純に日本がうまくいっていた高度経済成長期の日本の 金融システムに戻し、一般の日本国民が恩恵を受けることができる経済戦略を明確に示すことが希求されている。

3月 31

経済は心理的に作用する生き物である。そこにグローバルとつけば、世界経済の変動は加速される。宗教学者の山折哲雄氏は、景気循環を仏教用語で解釈すれば、諸行無常だと述べておられる。

現代の世相はまさに変動であり循環でもある。最大級の経済危機に喘いでいる中、一方では、日本人がノーベル賞、オスカー賞を受賞し、侍ジャパンの野球が世界の頂点に立った。日本の歴史上、これ程、危機と快挙の両極端を経験したことがあろうか。

世の中が暗いニュースで包まれている時の日本人の快挙は、健全なナショナリズムを喚起させるものである。ナショナリズムが偏狭に傾けば紛争につながる。また、ナショナリズムを杓子定規に語れば角が立つ。そこで、ナショナリズム、即ち国家の優位性や特異性をユーモアを交え語るに限る。

 その国民性を端的に表しているユーモアあふれるスピーチをいくつか挙げてみたい。ユーモアこそ、国民性や異文化の本質を突いていると思われる。

ウィーンやワシントンの国際会議を通じ、各国のスピーカーにそれぞれ特徴があることに気がついた。これは例えばの話であるけれど、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、北朝鮮、韓国、中国、日本のスピーカーが、それぞれ30分間の割り当てられた時間があるにもかかわらず15分遅れてきた。その緊急 事態においてどのようなリアクションを行うかによってそれぞれの国民性の特徴を観察できる。

 アメリカ人は、講演に慣れているので、時間の遅れを感じさせないぐらい講演内容を論理的に凝縮し内容のあるスピーチを行い、聴衆に質疑応答の機会を提供した。

 イギリス人は、あらかじめ用意してきたスピーチを縮めることなしに原稿なしに語ったが、途中で時間が来たので紳士的にスピーチを止め、端的な結論で締めくくった。

 ドイツ人は、遅れてきた時間をスピードで取り戻すべく2倍の速度の早口で語った。あまりの早口に圧倒され聴衆には内容が伝わらなかったが、ドイツ人はすべてを語ることに満足していた。

 フランス人は、文化の香りあふれる上品なスピーチを行ったが、議長が制限時間を越えていると伝えても次のスピーカーを無視して時間オーバーにも拘らず話し続けた。

 イタリア人は、遅れてくることに慣れているらしく、通常なら伝えるべきジョークを省き、時間内でうまくスピーチを行った。聴衆は、むしろ割り当てられた30分のイタリア人のスピーチよりも、15分に短縮されたイタリア人のスピーチの内容を理解することができた。

 北朝鮮のスピーカーは、決まったスピーチしか話すことをできないことを聴衆が知っていた。時間がオーバーしてもあきらめてそのスピーチを聞くしかなかった。その次に講演した韓国人は、パッションに満ちた北朝鮮と同じ時間のスピーチを行った。

 中国人は、時間がなくても主催者や出席者への謝意を述べ、大局や歴史のリズムを語り、各論が欠如することが多いので、聴衆は煙に巻かれてしまった。

 さて、日本人のスピーチだが、そもそも日本人は時間に厳粛だから国際会議の講演の時間に遅れてくるはずはない。仮に遅れてきても几帳面な日本人は原稿を用意しているのでそれを聴衆に配布することで、日本人の英語のスピーチを聞くより内容が伝わるらしい。

 各国のナショナリズムを批判できないが、各国の特徴をユーモアを介し語るのは、国境を越えた潤滑油の役割を果たす。経済用語の景気循環を諸行無常と表現できるように、それぞれの国民性による異なる見方が、世界をうまく循環させ柔軟性を生み出すようにも考えられる。

3月 19
 
 古くから対話によって時代を切り開く道が語られてきた。現在、百年に一度の経済危機に瀕していると世の中を騒がせているが、さて、歴史は未来を映す鏡であると言われる如く、120年前に出版された中江兆民の三酔人経綸問答を題材に現代の世相を眺望してみたく考える。
 
 兆民の名著、三酔人経綸問答では、19世紀末期、西洋の列強がアジアに迫り来る時代を背景に、ブランデーの酔いに任せ、夜を徹し大陸進出と富国強兵を唱える豪傑君と、非武装で、経済交流や文化交流を通じ日本の理想を語る洋行帰りの紳士君、そして南海先生の3人が日本の針路を語るのである。
 
 現在風に表現すれば、豪傑君はハードパワー(Hard)、洋行帰りの紳士君は、ソフトパワー(Soft)、そして南海先生はスマートパワー(Smart)の推進者である。
 
Smart 「百年前の豪傑君と洋行帰りの紳士君の白熱した議論は平行線を辿ったが歴史を振り返り反省すべき点はあるのか。率直な意見を求める。」
 
 Hard 「予測したとおり、我が国は軍備を増強し、列強のアジア進出を回避するために大陸に進出し、五族協和を理念に大東亜共栄圏を構築しようとしたことは国益に適っている。しかし、連合国を相手に戦い、原爆を投下され惨めな敗戦に追い込まれることは大きな誤算であった。」< /DIV>
 
 Soft 「現在の日本は、私が予測したように戦争放棄、文化交流・経済交流を推進する理想の国家になっているではないか。やはり、軍事に頼り大陸に進出すべきでなかった。」
 
 Smart 「立体的に歴史を考察すると、国家単位の戦略の背後に民族的な思惑があったのではなかろうか。例えば、日本は戦争を回避するチャンスはあったかもしれない。そのチャンスとは、日露戦後、ユダヤ系資本で動いたハリマンの鉄道王と満州の共同開発を推進することであった。その議論は米国の外交誌のForeign Affairsに委ねることにする。時間がないので現在の世相に移る。オバマ大統領の登場で世界がチェンジする兆しがあるが、特にグリーンニューディール政策を如何に解読するか。」
 
Soft 「30年代初頭の世界大恐慌を救った奇策は、ルーズベルト大統領が提唱したニューディール政策による有効需要の創出である。オバマ大統領は、地球環境問題を考慮した太陽光などのイノベーションを通じた現在のニューディール政策を推進している。現代の叡智が結集された政策であり、経済発展が期待できる。」
 
Hard 「性善説を唱えるSoftは、歴史を知らぬ。ルーズベルトは、ニューディール政策で負債が膨らむことを織り込み済みだったのだ。経済危機から抜け出す究極の雇用創出は、戦争だ。アメリカの軍事費を考察すれば当然の如く、アメリカは武器商として、武器を他国に押し付け、軍事顧問を送り込んでくるのだ。だから、我が国は、米国依存を脱却し 、自らの安全保障政策が必要なのだ。」
 
Smart 「クリントン国務長官が、軍事力に加え外交を中心とした賢明なパワーとしてスマートパワーを提唱しているが、日本人には理解できるがアメリカではなかなか理解しづらいことがある。それは、経済・外交・安全保障のすべてにおいて、万物は流転し、諸行無常であるという日本的な見方である。未来は突然に来るものであ る。だからこそ、地球のリズムに適った多元的な日本の考えを世界に発することが大切である。換言すれば、日本の役割は、アジア・太平洋の時代の到来において、アメリカの欠点を補い、日本の得意とする政策を実行することだろう。そのヒントとして、ハリウッドのようにお金をかけなくともオスカー賞を受賞した映画「おくり びと」にあるだろう。
 
 月刊「世相」2009年4月号に掲載

3月 19
国会の演説を聴いていると日米の温度差を感ぜずにいられない。首相や大臣が漢字の読み方を間違ったとことをメディアは、あたかも重大ニュースのように伝えている。日本のメディアは国家の文化水準の低さを内外に伝えるのでなく、もっと国益に適った本質的な内容を伝達すべきである。では、どうして竹村会でも素晴ら しい講演をなされる麻生首相ほど雄弁な人物が、国会では国民を奮い立たせるどころか、批判の対象となるのであろうか。
 
 明らかに日本とアメリカの国会議員の違いは、演説するときに原稿を棒読みにするかどうかである。換言すると、官僚が作成した文章を政治家が読まされているという所に問題があるのであろう。同じ内容でも、原稿に左右されず議員自らの言葉で語りかければ、国民にパッションが伝わり世の中が明るくなる。オバマ大統 領やクリントン国務長官のスピーチが、そうであるようにアメリカ人を酔わせる言葉のパワーを過小評価してはいけない。
 
 ワシントンで頻繁に上院下院の公聴会を傍聴した。当時、上院の外交委員会では、バイデン上院議員やルーガー上院議員が議長役として、外交の旬のトピックを実に分かりやすく説明し、また専門家や参考人とのやりとりが絶妙であった。例えば、ルーガー議長やバイデン議長のアドリブは、今朝のニューヨークタイムズや ワシントンポストのコラムニストが、こんなユニークなことを述べているとか、上院議員が自ら海外視察で見聞したことなどメディアに発表されないようなことを語り、ライブ性とユーモアを兼ね備え、聴衆をひきつけるパターンが多かった。
 
 上院の外交委員会の公聴会では、上院議員が多くの人々が疑問を抱いていることを外交や安全保障の専門家に分かりやすく問いかけ、明快な答えを引き出す所に醍醐味を感じた。同時に、常に建設的に問題を解決しようとする空気が漂っていたので、公聴会に出席することで確実に何かを学ぶことができた。
 
 公聴会は、上院議員が学ぶ場であり、また聴衆はメディアから得られない新鮮な本質的な主張や政策を得ることができる。上院議員は、多くの政策スタッフを抱えており、情報が豊富であり、官僚に支配されなく独自で高度なインパクトのある主張を行うことができるのであろう。上院外交委員会の末席に席を置いていた当 時のオバマ上院議員は、今から思えば、外交経験の不足を補うためにバイデン議長から帝王学のような指導を受けていたように思われる。
 
 クリントン国務長官が、上院の外交委員会で、経済・外交・軍事・政治・法律・文化の包括的な要素をミックスさせ、二国間外交のみならず多国間外交に基軸をおく賢明なスマートパワーの重要性を主張した。筆者が研究員として勤務したブルッキングス研究所の上司のスタインバーグ氏が、国務省の副長官に任命され、ま た、戦略国際問題研究所のキャンベル氏が、国務省の東アジア・太平洋担当の次官補に任命された。ワシントンのリベラル系のシンクタンクの経験を通じ、クリントン・スタインバーグ・キャンベルの外交政策、とりわけ日米同盟、アジア外交、国連外交や多国間外交をワシントンの視線で眺望することができる。
 
太平洋を挟み、日本が得意とする文化的・経済的なパワーを中心においたソフトパワーと、米国が推進する軍事力のハードパワーと直接交渉や多国間外交をミックスさせたスマートパワーがタイムリーに発揮されることにより、世界のパワーセンターは、アジア太平洋にシフトされるだろう。従って、今こそ日本の積極的・建 設的で賢明なビジョンを自らの言葉で語る時であろう。
 月刊「世相」2009年3月号掲載

3月 19
 80年代初頭、米国では、日本式経営が注目され日本式経営と米国式経営を融合させたセオリーZなる経営が研究された。しかし、30年前と比較し現在では、日本企業が米国企業のマイナス面を真似ているようだ。
 
 アメリカ発の金融危機が暴露したアメリカ企業の負の側面は、好景気には暴利を得たにもかかわらず、危機には公的支援に依存したりゴールデンパラシュートとして利益を得たまま逃避するところにある。これに反し、かつての日本企業の美徳は、終身雇用など市場経済至上主義と異質の倫理観であった。しかし、百年に一 度の経済危機は、日本人の心の関数をも変貌させようとしている。
 
 これらの危機に挑戦するために日本で日本式経営を実践しているアメリカ人の経営哲学が参考になる。30年前にアメリカから日本に移り日本国籍も取得されたアシストの社長のビル・トッテンさんは、日本の名門企業が非正規社員を解雇するという理不尽な昨今の動向を切実に批判されている。トッテンさんは、「アシス トの800人の社員に決してリストラはない。不景気の時には、特に管理職にペナルティーを科し、社員全員の給与を減少させ、危機を分散させればよい。非常時に備え、衣料の修繕ができるようにミシンを提供したり、食料を自給できるように農業の実習も行う。会社は社員の生活を守る責任がある」と語っておられる。
 
 一昔前の日本企業ならいち早くこのような経営哲学が発せられたが、今はグローバリゼーションの狭間の中で、多国籍企業化された日本企業から明確な経営哲学が聞こえてこない。ならば、就職難に苦しむ学生も含め社会問題として、世界の中の日本を考え、どのような仕事が地球のために役立ち、またそれぞれが満足でき る仕事に従事する可能性が生み出されるかを熟考しなければいけない。中長期的にフォーカスされるビジネスとして、農業、地球環境問題のテクノロジー、世界語としての英語の3つが挙げられる。これらを相互補完的に結びつけた仕事をパイオニア的なビジネスと考えられる。
 
 
 自然を謳歌する農業とモバイルの融合
 
 日本の食糧自給率は40%と極端に低い。世界と比較すればこ、危機的状況である。これを是正するにあたり、第一次産業である農業の改善が急務である。
 
 最新の情報を入手するためには、事務職であるホワイトカラーが優位であったが、昨今のテクノロジーの革新で、どこでもいつでも世界の最新情報に接続することが出来る。特に、最近では、I-Phoneの機能にあるYouTubeを通じ、事務所に居なくても、移動中でも、また山や海で自然に浸り、夜空の満天の星を仰ぎながらも世界にコネクトできるし、また机上に居なくても勉強や研究に没頭することが可能である。
 
 オバマ大統領は、地球環境問題に適合するテクノロジーを発展させることが、アメリカの自動車産業などの復活にとって必要不可欠であり、経済発展の機軸になると考えている。アメリカが求める環境にやさしいテクノロジーは、日本が世界をリードしている。
 
従って、農業、地球環境問題に関連するテクノロジーの分野に焦点を合わせるとビジネスの可能性が広がると考えられる。世界が注目する日本の有機農法や環境技術を世界に伝えるためには、世界語としての英語力の向上が不可欠である。農業に従事しながらもモバイルを通じ、英語力を磨くことが可能である。このように考 察すると、大自然の下でスマートな農業に従事しながら、幾つかの仕事を兼業できるパイオニア的なビジネスは、存在すると考えられる。日本企業が誇ってきた終身雇用が崩れた今、仕事は自ら創造するものであるという経営哲学も重要となろう。
 月刊「世相」2009年2月号掲載

3月 19
オバマ新政権の経済・外交・安全保障の重要ポストが発表された。イラク戦争の鎮静化に貢献したゲーツ国防長官が再任されたのはともかく、経済・外交に関しては、ブルッキングス研究所の息がかかっているように考えられる。
 
 ヒラリー国務長官の補佐役として、ブルッキングス研究所の外交政策部の筆者の上司であったジェームス・スタインバーグ氏が就任した。
 
ハミルトンプロジェクト
 
 2年半前にブルッキングス研究所で発表された「ハミルトンプロジェクト」のメンバーがオバマ政権の経済チームの主軸となっている。メンバーであるオバマ氏は、ブルッキングス研究所で基調講演を行った。
 
 このプロジェクトは、ブルッキングス研究所のピーター・オーザック氏とロバート・ルービン元財務長官が中心となり、ハーバード大学やプリンストン大学を主席で卒業した実務者を始め産官学の約30人の叡智を結集し、実践向きに設計されたものである。 

 

 プロジェクト名は、米国の初代財務長官のアレクサンダー・ハミルトンに由来している。西インド諸島で育ったハミルトンは独学で貧困を克服しワシントン大統領の右腕として米国の財政政策、金融システム、商業主義の基礎を築き、10ドル紙幣にも載っている。ハミルトンは、伝統的な米国の価値観を代弁する人物であり、ブルッキングス研究所が21世紀の今日、米国の経済政策の原点に戻り経済成長戦略を策定するにあたり、ハミルトンを礎にしたところに不思議と新鮮味を感じる。

 米国の価値観は、教育と勤勉を通じ豊かな人生の機会を提供してくれるところにある。しかし、今日、価値観を見出す投資がなされているのであろうか。今、求められているのは、長期的な繁栄と成長に向けた明確な経済政策であり、空論や政策上の主義を述べるのでなく成功の証となる実践や経験の新機軸となる理想 の経済成長戦略である。

 経済成長戦略としてハミルトンプロジェクトの3つの基本原則は、
 大多数の国民が経済成長の恩恵を受けることができる経済政策、経済保障と経済成長の両立、効率的な政府は経済成長を促進させることにある。


  ハミルトンプロジェクトの4つの機軸 

 教育分野への投資と仕事の機会の提供
 米国経済の成長は、人的資源に依存している。政府の試算によると、米国の民間の建物等の資産は13兆ドルであるが、人的資源は48兆ドルとなる。幅広い層へ教育の機会が提供されることにより競争力のある分野への潜在的な労働力を生み出す。

 イノベーションとインフラ整備
科学技術の発展を目指すインフラ整備は、経済発展の機軸である。世界のトップ50の科学技術研究機関の内38が米国の研究機関が占めている。しかし、米国の科学技術の影響力が低下傾向にある。4年以内に、中国人のエンジニアの博士の人数が米国を追い抜くと予測されている。科学技術の分野への本格的な投資・社会資本整備が必要である。

 貯蓄と社会保険
 
 効率的な政府
 民間経済と効率的な政府の相互補完的な統合的な協調が経済成長を維持させる。

 
 2年半前にブルッキングス研究所が次期政権の経済政策を描いた時には、米国発の世界恐慌は発生してなかった。世界を揺るがす大量破壊兵器はバグダッドでなく、ニューヨークを震源地とするサブプライムローンであったと語られる今、中産階級の興隆を礎とする経済政策が米国のみならず世界にどのような影響を与 えるのであろうか。ブルッキングス研究所をはじめとするワシントンのシンクタンクの動向を解読することで、メディアよりも鋭い分析と構想を練ることが可能となろう。
月刊「世相」2009年1月号に掲載
3月 19
ルイヴィトンの新作のバックが京都の上賀茂神社の空間を背景に紹介されているのを某雑誌で見た。パリのファッションの旋律が京の神社の自然の静寂に浸みわたるこの企画を行ったのは、フランス人が日本人が知らないが、粋な演出である。
 
先日、同じく京都の下鴨神社で、「にっぽんと遊ぼう」という京の粋を楽しむ催しが行われた。神社の自然の緑に包まれた暗闇の空間にかなでられるピアノの調べは、悠久の時を超えて古のロマンが、華やかにそして厳かに奏でられた。内外のセレブ400人が京の味とともに極上のシャンペンを楽しむ空間が京都の神社 にマッチしていた。
 
西洋と東洋の文化の頂点を織りなすパリと京都。東西の文化を抱擁し、シンクロナイズさせるパワーが京の神社には宿っていると感ぜずにいられない。
 
また、京都に何十年も住む外国人が臨済宗の総本山である京都の妙心寺にて、秋の夜長の京都を満喫する催しを企画した。日本の伝統を研究し精通している外国人が選んだ催しは、紙芝居と尺八。禅の枯山水の庭に響く繊細で激しい尺八の音色は、あまりにも美しかった。
 
京都の神社とお寺で奏でられるピアノと尺八は、パリやウィーンのオペラやコンサートに匹敵するだけの文化度を秘めていると考えられる。古より脈々と流れる京都の神社仏閣のありのままの空間を応用させることにより、西洋と東洋をシンクロナイズさせることが可能となろう。西洋もどきの箱ものに莫大な出費をしな くても、歴史と文化と自然の空間を織りなすことにより、世界を驚かすに値する日本のソフトパワーを発揮することができる。
 
 西洋は東洋に憧れ、東洋は西洋に憧れるものである。そこに交流や調和が生まれる。また、異なった要素は、時には政治や経済の争いが転じ戦争へと導く。現在の世相を観察すると、核戦争の恐怖心から人類滅亡を回避する戦争への抑止力が機能し、むしろ世界の万民が共有できる地球環境問題など地球益の大切さが観 えてくる。
 
 地球を観ることが大切である。夜空を仰げば月や星は照り輝いているが、地球のあるべき姿を自然の空間で展望することは、宇宙船で観る他はない。しかし、京都造形芸術大学の竹村真一先生が開発された「触れる地球」なら、実際の地球の1千万分の1というサイズで、生きた地球の姿をリアルタイムで体感できるのである。
 
 我々の遠い遠い先祖であるDNAは、きっと宇宙という空間を彷徨いながら地球という宇宙に浮かぶ1個の球(グローブ)を認識したに違いない。人類はロケットが発明されるまで地球を観ることができなかった。しかし、現代の科学は、人類が宇宙船で宇宙を旅し、宇宙を遊泳することを可能にした。
 
 宇宙からリアルタイムで送られてくる映像を「触れる地球」を通じて、真っ暗な静寂に包まれた京都の神社や禅宗のお寺の空間で味わってみるのも粋である。京都には西洋の文化を抱擁し、西洋の人々を酔わせる風情と空間がある。その神社やお寺の空間を応用し、東西の文化を調和させるのみならず、宇宙遊泳を想像 しながら地球のダイナミズムを地球人として体感することは、実に神秘的であり、科学的である。
 
 21世紀の今日まで人類が気がつかなかった地球への平和がそこから生みだされるように思う。全国竹村会でも講演された天下一品の木村勉社長が、上賀茂神社の空間で「触れる地球」を披露される日を楽しみにしている。まさにこれは、「地球を楽しむ」京都の粋な催しとなろう。
 月刊「世相」2008年12月号掲載

3月 19
 麻生首相は、西アフリカのシエラレオネにて2年間、ダイヤモンドや金の資源開発のために生活されたらしい。欧米で学ぶリーダーが多い中、麻生首相が、発展途上国、しかもアフリカの奥地で人間の原点に直覚するような体験をされたことは、国益に適う素晴らしいことであり、今までの日本のリーダーにない大局観と創造 性に満ちた指導力が期待できる。アフリカは未開の地であるからこそ学ぶことがないというのではなく、反対に多くのことを習得することができたというのが、筆者の2年間の西アフリカでの実感でもある。
 
先日、これぞアフリカの未来に理想と現実をつなぐ面白いコラム(日経新聞)に出会った。エナジーキオスクと題するそのコラムには、国連工業開発機関が推進するアフリカの奥地のプロジェクトの成功例が描かれていた。
 
「都市からも拠点村落からも外れた集落。電気、ガス、上下水道などのインフラはもちろんない。でも、集落の人々はちゃんと携帯電話やパソコンを持っている。村はずれにある赤い屋根の掘立小屋。人々はそこに通って電気を買っているのである。周りに水の流れがあればそれを利用する。風の吹く場所には風車を。ある いは、屋根に太陽光パネルをおく。そのいずれもが利用できない場合でもバイオマスを使う発電機や地域の植物油から作るディーゼルからも電気を作る。そこに接続して携帯電話なら一回20円でできる。ひと呼んでエナジーキオスク。完全地産地消型の施設である。」
 
 ぼくは20年前に国連工業開発機関の準専門家として、西アフリカのリベリアの当り前のインフラ整備がない奥地で、2年間、中小企業育成のプロジェクトに従事した。当時は、エナジーキオスクのような産地消型の施設はなかった。ただ当時の知識では、電機や水道のインフラを整備するためには、巨額の ODAが必要だと考えられていた。
 
 その巨額の資金を得るために冷戦末期のアフリカ諸国では、先進国から技術支援や資金協力を得るために政治が混乱し、大規模のインフラ整備のために住民は過剰な労働を強いられ、加えて環境破壊へつながった。
 
 その意味からもローカルの素材でそこで生活する住民がローカルな技術力でエネルギーを自家発電できるシステムは、画期的だと考えられる。エナジーキオスクとサテライトのテクノロジーで、最も安く効率的にアフリカの奥地と世界が結びつくのである。
 
 アフリカの発展にとっては、先進国の物差しで展望するのではなく、アフリカの将来を担う子供たちの目線で下座鳥瞰すべきだと思う。当時リベリアで国連の中小企業の育成のプロジェクトで、大型のインフラ整備の対極的な、村の人々に小規模の資金を提供し、家具製造、鍛冶屋、養鶏、養豚などのアフリカの奥地の産 業を推進した。数年前にマイクロファイナンスのプロジェクトを具現化したバングラディッシュ人がノーベル平和賞を受賞した。
 
 アフリカのみならず20年以上かけて世界を翔けて日本に戻ってきて、とりわけ農林水産業やエネルギーの地産地消の大切さを実感している。案外、日本の地域格差を解消する秘策としてアフリカの知恵が役に立つのではないだろうか。後進だから旬の技術力が生かされるということもあろう。少なくとも麻生首相には、 秋葉原と同じようにアフリカの知恵も生かせて頂きたく思う。
月刊「世相」2008年11月号掲載